【執筆者一覧】(執筆順)
保坂 隆 東海大学医学部教授 吉川 徹 労働科学研究所副所長 和田耕治 北里大学医学部衛生学公衆衛生学講師 藤澤大介 慶應義塾大学医学部精神・神経科 猪狩圭介 国立病院機構肥前精神医療センター,日本若手精神科医の会(JYPO) 館農 勝 札幌医科大学神経精神医学講座講師 上原久美 神奈川県立精神医療センターせりがや病院医長,日本若手精神科医の会(JYPO) 塩入明子 都立駒込病院神経科 赤穂理絵 都立駒込病院精神科医長 藤富 豊 大分県厚生連鶴見病院副院長,乳腺外科部長 西田 博 東京女子医科大学医学部心臓血管外科講師 後藤忠輝 東海大学医学部附属大磯病院脳卒中神経センター,脳神経外科 山田晋也 東海大学医学部附属大磯病院脳卒中神経センター長,脳神経外科准教授 有賀 徹 昭和大学医学部救急医学教授 後藤隆久 横浜市立大学大学院医学研究科生体制御・麻酔科学教授 今村利朗 医療法人じあい会理事長 土田 尚 国立成育医療センター総合診療部 新井基洋 横浜市立みなと赤十字病院耳鼻咽喉科部長 所 昭宏 国立病院機構近畿中央胸部疾患センター心療内科医長 松田能宣 国立病院機構近畿中央胸部疾患センター心療内科 青野奈々 国立病院機構近畿中央胸部疾患センター心療内科 篠原 隆 最高裁判所 木村元紀 東京医科歯科大学医学部心療・緩和医療学,荏原病院精神科 小林未果 国立精神・神経センター精神保健研究所社会精神保健部,東京医科歯科大学医学部心療・緩和医療学 松島英介 東京医科歯科大学医学部心療・緩和医療学准教授 織田 進 福岡産業保健推進センター所長 平井愛山 千葉県立東金病院院長 白川和豊 三豊総合病院院長 豊田京子 三豊総合病院臨床心理士 舟越光彦 総合病院千鳥橋病院副院長,九州社会医学研究所 荒木葉子 荒木労働衛生コンサルタント所長,東京医科歯科大学特任教授
【序】
編者はこれまで,ストレスに関する専門書や一般書を何冊か執筆してきたが,医療崩壊の背景のひとつである「医師のストレス」を真正面からとらえるべき時が来たと思っていた.その時に,同じ考えを持った有志(本書執筆者の和田氏,吉川氏,織田氏)らと協力して,2008年6月に日本医師会内に「勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会」を設置していただいた.同じ頃,本書執筆者の松島氏と「医師が患者になるとき(メディカルサイエンス・インターナショナル)」を訳出する機会を得た.そのような流れの中で本書の出版に至ったのである. 本書ではまず,上述した委員会が実施したアンケート調査の結果に触れた後,医師が罹りうる精神疾患について例示しながらページを割いた.それに続いて,臨床各科に特異的なストレス状況について,現場の医師に書いていただいた.最後に,諸外国での取り組みを紹介しながら,わが国の課題について述べ,今後どのような取り組みが可能であるかを考え,現時点で実際に取り組んでいるところを紹介した. 本書はまず,現場で疲弊しながらも患者さんのために一生懸命臨床に従事してくださっている医師に読んでいただきたい.もしかしたら,誰か専門家に相談してもよい状況に陥っているかもしれないからだ.そして,病院長や経営者にも読んでいただき,一緒にストレス対策について考えていただきたい.また,国や自治体の行政に携わっている方にも読んでいただき,逼迫した現場の状況を感じとっていただきたい.そして最後に,患者さんや一般の方にも読んでいただきたい.現場で働く医師も,ストレス処理の下手な人間であることを知っていただきたいからだ. 医療は誰のものでもなく,社会全体のものすなわち公共財である.われわれは,そこで働く医療者には十分に健康を維持していただき,この公共財を有効に利用すべきであろう.そのために,少しでも本書が役に立てるなら編者としてこの上ない喜びである.
2009年11月 保坂 隆
【目次】
第1章 医師のストレス 1.医師のメンタルヘルス<保坂 隆> 2 A.ストレスからうつへの段階モデル3 B.医師にみられる精神疾患7 1.睡眠障害7 2.統合失調症および妄想性障害8 3.躁うつ病(双極性障害)9 4.適応障害10 5.うつ病12 6.不安障害16 7.強迫性障害17 8.アルコール依存19 9.物質依存20 C.医師のメンタルヘルスの特殊性22 2.医師のストレスと不健康度─アンケート調査から <保坂 隆,吉川 徹,和田耕治> 25 A.方法25 B.結果26 1.勤務状況・一般項目について26 2.メンタルに関する質問票(QIDS)27 3.勤務医の健康支援のために必要と思われる改善策30 C.考察31
第2章 臨床各科の特徴 1.研修医のストレス<藤澤大介,猪狩圭介,館農 勝,上原久美> 36 A.臨床研修の特殊性36 B.研修医・専修医の特殊性37 C.研修医・専修医のストレスとその対策38 2.女性医師のストレス<塩入明子,赤穂理絵> 42 A.女性医師のストレスについて42 B.ストレスをいかに軽減していくか44 1.ストレスとなりうる原因を減らす44 2.ストレス自体を軽減,解消する45 3.外科医のストレス<藤富 豊> 48 A.外科の特殊性50 B.外科の医師自身の特殊性51 C.外科医のストレスと対策51 D.死生観と宗教52 4.胸部外科医のストレス─心臓血管外科医を中心に<西田 博> 54 A.心臓血管外科領域内部の課題55 B.“incentive見返り”面からみたストレス56 日本胸部外科学会のアンケート結果から56 C.“Motivation動機”の達成感からみたストレス60 D.なぜ一人前の心臓血管外科医になることに絶望感を抱くのか63 1.教育・修練プログラムの現状63 2.教育・修練資源(=手術数)とマンパワーの関係64 3.チーム医療の重要性66 5.脳神経外科医のストレス<後藤忠輝,山田晋也> 70 A.脳神経外科医の数70 B.在院日数の短縮化72 C.訴訟74 D.脳死76 6.救急医のストレス<有賀 徹> 78 A.救急診療の現場で生じるストレス79 1.救急外来からの患者の流れ79 2.救急医療の“丸投げ”によるストレス80 3.初期臨床研修医への教育など81 B.社会状況とストレス81 1.医事紛争に巻き込まれる懸念81 2.救急医療における終末期医療82 3.安全・安心な医療の実践を妨げようとする状況83 C.社会・文化的な背景からの考察85 1.患者・家族らの思いなどとの乖離85 2.医療者の自律86 7.麻酔科医のストレス<後藤隆久> 89 A.麻酔科の特殊性89 1.マンパワーが慢性的に不足し,長時間労働が常態化している89 2.労働のスケジュールが自分ではなく,外科系医師によって決定される90 3.一人でいる時間が長い90 4.患者からの認知,感謝が少ない90 5.外科系診療科が麻酔科を自科より劣ったもののようにみる傾向がある90 6.社会的評価が低いと麻酔科医自身が感じている91 7.ミスが許されない91 B.麻酔科を専攻する医師の特殊性91 C.麻酔科医のストレス92 8.産科医のストレス<今村利朗> 95 A.産科の特殊性95 1.2つの母─母体と胎児95 2.夜間・休日の業務多忙96 3.安全神話と訴訟96 B.産婦人科の医師・分娩施設の特殊性98 1.分娩施設数の減少98 2.小規模分娩施設99 3.当直回数の多さ100 4.女性医師急増100 C.産婦人科医師のストレス─産婦人科医師数減少,分娩離脱医師数の増加100 9.小児科医のストレス<土田 尚> 105 A.小児科・小児医療の特殊性106 B.小児科医の特殊性108 10.耳鼻咽喉科医師のストレス<新井基洋> 112 A.耳鼻咽喉科の特徴とストレス背景113 B.外来業務のストレス114 1.開業医編114 2.勤務医編114 3.耳鼻科医に共通するストレス115 C.入院,手術患者におけるストレス115 D.通常勤務以外の勤務におけるストレス116 1.開業医編:学校医,医師会での休日診療所でのストレス116 2.勤務医編:夜間救急外来でのストレス117 3.耳鼻科医に共通するストレス118 E.患者やその家族からのクレーム,訴訟からくるストレス118 1.患者クレーム118 2.患者の家族におけるストレス119 3.訴訟のストレス119 F.若手,指導医のストレス121 1.若手医師編122 2.ベテラン指導医編123 11.緩和医療医のストレス<所 昭宏,松田能宣,青野奈々> 125 A.緩和医療科の特殊性125 1.わが国のがん対策の現状125 2.わが国のがん緩和医療の概況125 B.緩和医療科の医師の特殊性126 1.緩和医療に関連する診療科126 2.未成熟な緩和医療医の専門的教育システム126 3.緩和医療医の仕事の実際127 C.緩和医療科の医師のストレス127 1.職場環境としての緩和医療127 2.緩和医療医のメンタルヘルスに関する文献的考察128 3.今後の対策─セルフケアとチームケアの活用129 12.精神科医のストレス<篠原 隆> 131 A.精神科の特殊性131 B.精神科医の特殊性131 C.精神科医のストレス133
第3章 医師のストレスに対する諸外国での取り組み Physician Health Programでの取り組み<和田耕治> 136 1. 医療機関での組織的対応を促進する138 2. 医師が自分自身の健康を維持するように啓発を行う139 3. 医師の健康支援を考える学術会議やシンポジウムを開催する140 4. 医師のための電話などによる相談窓口を開設する141 5. 医師を診察する際に配慮すべき点を学ぶ場を提供する141 6. 家族との関係に関する支援142 7. 医療事故や訴訟のストレスから自分を守る142
第4章 わが国における現状と課題 1.リエゾン精神科医の立場から <木村元紀,小林未果,松島英介,保坂 隆> 146 A.対象と方法147 B.結果147 1.人口統計学的データ147 2.勤務時間および日・当直について148 3.職場の雇用条件および職場の体制について149 4.職場でのコミュニケーションや実際の治療場面におけるストレスについて149 5.現在の身体的・精神的健康状態について152 6.精神科・心療内科病床数の違いによるアンケート調査結果の差異について153 C.考察154 2.勤務医の診療報酬─“鵜飼の鵜”というストレス<西田 博> 158 A.わが国における外科的診療報酬とは158 1.外科医個人との関係158 2.外科診療報酬に含まれる人件費161 3.外科診療報酬はどのように決まっているのか161 B.外科診療報酬と医療材料・医療機器の費用の関係について165 1.モノの値段とヒトの労働・汗への対価の関係165 2.鵜匠の話166 3.鵜(日本の勤務医,胸部外科医)の話(日本胸部外科学会アンケート結果より)171 3.医師の自殺の特徴およびその予防<織田 進> 181 A.医師の自殺の現状181 B.医師の自殺の特徴183 1.自殺の原因183 2.自殺の手段183 3.女性医師183 C.医師の自殺予防183 1.医師自身でできること183 2.同僚や上司ができる自殺予防184 3.産業保健スタッフができる自殺予防184 4.自殺予防を含むメンタルヘルス対策としての産業医活動の具体例185 5.組織,社会でできること187 4.職場環境改善・労働条件改善による医師のストレス一次予防の取り組み<吉川 徹> 191 A.職場のストレス対策の意義191 B.一次予防のアプローチと医師のストレス対策192 1.職場のストレス一次予防対策の3つのアプローチ192 2.医療機関における職場環境改善の意義とメンタルヘルス195 C.勤務医健康支援プロジェクトによる医師の健康支援の課題チェックリスト開発196 1.日本医師会の委員会による職場改善チェックリスト196 2.医師の職場改善の進め方197 3.社会保険中央病院の診療部長研修会での活用の例202 4.チェックリストの活用を継続的な改善につなげるために 204 D.医師の労働条件・職場環境改善に向けた取り組みと課題205 5.医療崩壊から再生へ─内科勤務医のストレスとその対策─ <平井愛山> 209 A.進む地域医療の崩壊と内科勤務医の大量辞職210 1.地域の公立病院にみる医療崩壊の現状210 2.地域医療崩壊のパターン(1):行政の無理解211 3.地域医療崩壊のパターン(2):市民の無理解(医師・患者関係の崩壊)212 B.地域医療崩壊の背景を探る213 1.国際比較からみたわが国の医療システムの特徴と医療崩壊の背景213 2.医師供給システムの激変と医療崩壊214 3.立ち去り型サボタージュにみる医療崩壊とその原因として「医療バッシング」215 4.医師・患者の関係性の崩壊と医療崩壊217 C.地域医療の崩壊から再生へ:「地域で医師を育てる」 取り組み 217 1.千葉県山武地域の医療崩壊の現状217 2.医師の人材育成基盤の地域間格差:地域医療崩壊の重要な背景因子219 3.地域医療を担う医師を地域で育てる取り組みの実際(1):初期臨床研修221 4.地域医療を担う医師を地域で育てる取り組みの実際(2):内科系後期臨床研修223 5.地域医療を担う医師を地域で育てる取り組みの実際(3):総合医・家庭医の育成225 6.地域医療を担う医師を地域で育てる取り組みの成果228 7.地域医療再生を支える市民活動228 6.病院スタッフのストレスとその対策<白川和豊,豊田京子> 233 A.職員相談233 B.ストレス調査235 C.職員によるインタビュー調査236 D.メンタルヘルスケア研修会237 E.産業カウンセラーによるききとり調査237 F.復帰支援プログラムについて238 G.医師のメンタルヘルス対策239 7.医療機関におけるメンタルヘルス対策の経験<舟越光彦> 242 A.ストレス調査の方法242 B.メンタルヘルス対策の実施内容243 C.メンタルヘルス対策の効果247 D.考察249 E.Health Promoting hospital(HPL,健康増進拠点病院)の国際ネットワークへの参加250 8.女性医師のキャリア,ライフ,ヘルス支援─女性のみならず医師全体の問題であることをふまえて<荒木葉子> 252 A.女性医師の実態254 1.日本女医会調査254 2.日本医師会調査255 B.医師のストレス─男女差はあるのか?256 C.ストレス対策すなわち「安心と希望の医療」に向けて257
索 引265