【執筆者】 宝金清博 札幌医科大学医学部脳神経外科教授 江面正幸 国立病院機構仙台医療センター脳神経外科医長 松本康史 広南病院血管内脳神経外科 塩川芳昭 杏林大学医学部脳神経外科教授 佐々木真理 岩手医科大学先端医療研究センター准教授 井田正博 荏原病院放射線科部長・総合脳卒中センター 安陪等思 久留米大学医学部放射線科准教授 広畑 優 久留米大学医学部脳神経外科准教授 近藤 礼 山形大学医学部脳神経外科 嘉山孝正 山形大学医学部脳神経外科教授 河本俊介 獨協医科大学脳神経外科准教授 波出石 弘 亀田総合病院脳神経外科主任部長 佐々木雄彦 中村記念病院診療本部長 中山若樹 北海道大学大学院医学研究科神経外科 吉田貴明 群馬大学大学院医学系研究科脳脊髄病態外科学 好本裕平 群馬大学大学院医学系研究科脳脊髄病態外科学教授 森本哲也 大阪警察病院脳神経外科部長 安井敏裕 大阪市立総合医療センター脳神経外科部長 石川達哉 秋田県立脳血管研究センター脳神経外科学研究部部長 堀内哲吉 信州大学医学部脳神経外科講師 本郷一博 信州大学医学部脳神経外科教授 水谷 徹 東京都立府中病院脳神経外科部長 野中 雅 札幌医科大学医学部脳神経外科准教授 阿部博史 立川綜合病院循環器・脳血管センター脳神経外科副所長 大石英則 順天堂大学医学部脳神経外科准教授 卯田 健 国立病院機構九州医療センター脳神経外科 森脇 寛 東京警察病院脳神経外科・脳卒中センター 河野道宏 東京警察病院脳神経外科・脳卒中センターセンター長 佐々木達也 福島県立医科大学脳神経外科准教授 佐久間 潤 福島県立医科大学脳神経外科講師 鈴木恭一 福島赤十字病院脳神経外科部長 井上智弘 富士脳障害研究所附属病院脳神経外科部長 森田明夫 NTT東日本関東病院脳神経外科部長 木村俊運 NTT東日本関東病院脳神経外科 楚良繁雄 NTT東日本関東病院脳神経外科主任医長 野崎和彦 滋賀医科大学医学部脳神経外科教授 秋山幸功 札幌医科大学医学部脳神経外科
【刊行に際して】 今日の脳神経外科医療は,コンピ ュ ータを用いた画像診断技術・手術モニタ ーリングシステムの進歩や,マイクロサ ージ ェリ ー・血管内治療・神経内視鏡・定位放射線治療法,術前後・周術期の薬物療法の進歩とともに,大きく発展した.学会研究会の統合・集約化が叫ばれる一方で,脳神経外科学会ホ ームペ ージの学会案内の中に,全国・地方レベルの若い学会・研究会の誕生を多数見る.これは,医療技術の進歩に加えて,安全・確実な低侵襲な医療の提供を望む患者や社会の意識の高まりに呼応した結果であり,必然的な流れである. この10年間の脳神経外科医療とそれを取り巻く社会環境のめまぐるしい変化にともない,脳神経外科専門医やそれを目指す医師・関連領域の医師にと って,身につけるべき知識や技術は増加した.ここに習得しておくべき知識,テクニ ックをまとめ,最新の知見にふれ具体的に解説するために,「脳神経外科エキスパ ート」シリ ーズを企画した. 「前頭葉・側頭葉」「間脳下垂体」「頭蓋底」「脊髄・脊椎」など解剖部位別にまとめる書では,解剖,病態などベ ーシ ックな知識,ガイドライン・エビデンスなど臨床のスタンダ ード,具体的な診断と治療の指針,テクニ ック,さらには最新のトピ ックスを解説する.また「脳動脈瘤」「脳血管内治療」のように疾患,治療手技をテ ーマとする書では,診療の基本指針とあわせて,手術テクニ ックやピ ットフ ォ ールなどを各領域のエキスパ ートがそれぞれの経験とエビデンスを踏まえて実践的に解説した.イラストや写真,表を積極的に盛り込んでビジ ュアルでわかりやすい記載を目指した.一冊ずつが独立した書として,当該テ ーマを深く掘り下げていくが,同時に本シリ ーズを通読することにより脳神経外科エキスパ ートが身につけておくべき幅広い知識を得ることができるように構成した. あわただしく日常診療に追われる脳神経外科専門医とそれを目指す臨床医にとり,日々の臨床に役立つ実践の書として活用いただければ幸いである. 2008年10月 編集者一同
【序】 脳動脈瘤は,脳神経外科医師にと って,最も基本的な疾患の一つである.特に,本邦においては,世界的にも類を見ない高解像度のMRAを用いた脳ド ックの発達により,極めて特異な医療状況がある.すなわち,未破裂脳動脈瘤の患者さんが日常的に脳神経外科医の外来を訪れる.その一方で,治療法に関しては,従来の開頭・クリ ッピングに追いつくように,血管内外科治療が急速に進歩してきた.その進歩の速さは極めて異例なもので,標準的な治療というものが常に色褪せてゆく状況をもたらした.言い換えると,脳動脈瘤は基本的な重要疾患ではあるが,その治療に関しては,おそらく1年程度で新しい知見が標準的な治療法に大きな修飾を加えるという状況がしばらくは続くものと思われる. こうした時期に,「脳動脈瘤」をテ ーマとして,本シリ ーズの主たる対象である「脳神経外科エキスパ ート」の要求に応えるコンテンツを盛り込むことは容易ではなか った.そこで,本書ではまず,従来の基本的な治療法である開頭・クリ ッピング,あるいは,母動脈遮断・血行再建の技術をエキスパ ートに十分に述べてもらうこととした.と言うのも,開頭手術に関しては,その細かな技術の進歩は着実であるが非常にゆ っくりしたものである.したが って,今の時点での集大成は,次のステ ップにと って必須であるばかりでなく,その進歩のスピ ードを考えると,本書に記載された技術が本書の読者である一般的な脳神経外科医にと っては当面はゴ ールドスタンダ ードとして十分に耐えられると考えられるからである.言い換えると,本書で示されたcontemporaryな開頭手術のテクニ ックはここ10年程度は基本的に変わるものではない. しかし一方,血管内手術に関しては今後も目を離せない急速な進歩を遂げるものと思われる.そこで本書では,第一線の現場でその進歩に直接関与しているエキスパ ートの先生方にお願いして,現在における最高の技術を提示したいただく一方で,その限界と今後の展望にも言及していただいた.その意味では,変わらぬ技術と進歩する技術をバランスよく述べることができたと自負している. また本書では,技術だけにとどまらず,脳動脈瘤,特に未破裂脳動脈瘤の治療戦略に欠くことのできない最新の疫学的知見やそれに基づいた治療方針の考え方も専門の先生方に述べていただいた. 脳動脈瘤という脳神経外科医にと って最も日常的な疾患をもう一度今日的な視点から見直し,実際の臨床に即した適切な治療に結びつけるために,本書を是非,開いていただければ幸いである.
【目 次】 1 治療法選択の原則 〈宝金清博〉 1 1.脳動脈瘤治療の目標設定 1 2.情報の重要性 3 a)動脈瘤そのものの情報 4 b)周辺構造との関連 5 c)治療戦略に関する情報 7 d)開頭術(クリッピング)か,コイル塞栓術か? 8 3.患者と医師との情報共有と意思決定 11 2 血管内外科治療の選択 〈江面正幸 松本康史〉 14 1.瘤内閉塞療法 14 a)離脱型バルーンの時代 14 b)離脱型コイルの出現 14 c)ISAT 14 d)瘤内塞栓療法と開頭クリッピング術の違い 16 e)瘤内塞栓療法の選択 17 f)実際の対応 17 2.親血管閉塞療法 19 3.動脈瘤に対する脳血管内治療の展望 20 3 外科治療の選択 〈塩川芳昭〉 22 1.治療選択に影響を与える因子と外科治療 22 a)動脈瘤固有の問題 22 b)患者背景 22 c)医療環境の問題 23 2.コイリングと対比させた場合のクリッピングの優位性 23 3.外科治療の選択の根拠 24 4.クリッピング以外の外科治療の選択 25 a)クリップを用いない動脈瘤頸部の閉塞ないし補強 25 b)親動脈の治療的閉塞 25 4 画像診断 A.CT scan(3D−CTA) 〈佐々木真理〉 27 1.頭部単純CT 27 2.3D−CTA 27 B.MRアンジオグラフィー(MRA) 〈井田正博〉 31 1.TOF MRAの撮像原理 31 a)MRI撮像の原理 31 b)MRI撮像シーケンス 32 c)血流のMR信号の原理 33 2.MRAによる脳動脈瘤の読影と診断に際しての基本事項 36 a)TOF MRA信号の特徴 36 b)FSE法T2強調画像のflow voidの特徴 39 c)FSE法FLAIRの有用性 39 d)造影MRAの原理と有用性 40 e)画像viewerにおける基本事項 46 C.DSA:脳動脈瘤の診断と治療における 脳血管造影装置の進歩 〈安陪等思 広畑 優〉 47 a)脳動脈瘤の診断における各種modalityを概観 47 b)現代のDSA装置に求められる基本性能 48 c)脳血管内治療に役立つアプリケーション 48 d)治療後の経過観察 49 e)デジタルデータの利点を活用 49 f)放射線被曝の低減化への努力 50 5 脳動脈瘤の外科治療のルーチン A.内頸動脈瘤 52 1.海綿静脈洞部動脈瘤 〈近藤 礼 嘉山孝正〉 52 a)手術適応と術式の選択 52 b)手術手技 54 c)合併症の予防・対策 58 2.内頸動脈傍床部動脈瘤 〈河本俊介〉 60 a)手術プラン 60 b)開頭 60 c)硬膜内操作(前床突起削除以降) 63 d)クリッピングのコツ 66 e)合併症とその予防 69 3.内頸動脈−後交通動脈瘤,内頸動脈−前脈絡叢動脈瘤,内頸動脈先端部動脈瘤 〈波出石 弘〉 71 a)手術プラン 71 b)開頭 72 c)硬膜内操作(Sylvius裂の開放) 72 d)クリッピングのコツ 78 e)合併症とその予防 81 B.前大脳動脈瘤 83 1.前大脳動脈水平部動脈瘤 〈佐々木雄彦〉 83 a)手術プラン 83 b)開頭 85 c)硬膜内操作 86 d)クリッピングのコツ 87 e)合併症とその予防 88 2.前交通動脈瘤 〈中山若樹〉 90 a)手術プラン 90 b)interhemispheric approach 90 c)pterional approach 102 3.前大脳動脈末梢部動脈瘤 〈佐々木雄彦〉 106 a)手術プラン 106 b)開頭 108 c)硬膜内操作 110 d)クリッピングのコツ 112 e)合併症とその予防 112 C.中大脳動脈瘤 〈吉田貴明 好本裕平〉 114 1.中大脳動脈分岐部動脈瘤 114 a)手術プラン 114 b)開頭 115 c)硬膜内操作 117 d)クリッピングのコツ 118 e)合併症とその予防 120 2.中大脳動脈水平部動脈瘤 120 a)手術プラン 120 b)開頭 121 c)硬膜内操作 121 d)クリッピングのコツ 121 3.中大脳動脈末梢部動脈瘤 121 a)手術プラン 121 b)開頭 121 c)硬膜内操作 121 d)クリッピングのコツ 121 D.脳底動脈先端部動脈瘤 〈森本哲也〉 123 a)体位と頭位 125 b)開頭 125 c)硬膜内操作 125 d)クリッピングのコツ 127 e)合併症とその予防 130 E.椎骨動脈−後下小脳動脈分岐部動脈瘤 〈安井敏裕〉 131 a)手術プラン 132 b)開頭 132 c)硬膜内操作 134 d)クリッピングのコツ 135 e)合併症とその予防 135 6 特殊な動脈瘤の外科治療 A.巨大動脈瘤 〈石川達哉〉 137 1.海綿静脈洞部内頸動脈巨大動脈瘤 138 2.傍鞍部巨大内頸動脈瘤 140 a)圧迫症状を呈したもの 140 b)未破裂脳動脈瘤(圧迫症状のないもの,あるいは軽度なもの) 143 3.破裂巨大脳動脈瘤 145 4.椎骨脳底動脈系の巨大脳動脈瘤 147 B.血栓化動脈瘤 〈堀内哲吉 本郷一博〉 152 a)手術プラン 153 b)皮膚切開,開頭 154 c)治療方法 154 d)合併症とその予防 162 C.解離性脳動脈瘤―解離性椎骨動脈瘤の安全な トラッピング術 〈水谷 徹〉 163 a)手術プラン 163 b)体位と皮膚切開,開頭 163 c)硬膜内操作 164 d)OA(後頭動脈)の確保 169 e)硬膜内操作 171 f)OA−PICA吻合 172 7 血管内外科治療の基本 A.総論 〈野中 雅〉 177 a)術前・術中・術後管理 177 b)基本手技の実際 178 c)術後フォローアップ 179 d)合併症 180 B.内頸動脈瘤 〈野中 雅〉 182 a)適応決定におけるポイント 182 b)実際の手技 182 c)破裂例における違い 184 d)症例提示:標準的治療法 184 e)症例提示:advancedな治療法 186 f)治療成績 188 g)合併症 188 C.前交通動脈瘤 〈阿部博史〉 190 a)適応決定におけるポイント 190 b)実際の手技 190 c)破裂例における違い 192 d)前大脳動脈水平部(A1)動脈瘤 193 e)前大脳動脈末梢部(A2−A3)動脈瘤 194 f)症例提示:標準的治療法 194 g)症例提示:advancedな治療法 195 h)治療成績 196 i)合併症 196 D.中大脳動脈瘤 〈大石英則〉 198 a)適応決定におけるポイント 198 b)実際の手技 198 c)症例提示:標準的治療法 199 d)症例提示:advancedな治療法 200 e)合併症 201 f)治療結果とフォローアップ 201 E.椎骨・脳底動脈瘤 〈卯田 健〉 203 a)適応決定におけるポイント 203 b)実際の手技 204 c)症例提示:標準的治療法 207 d)合併症 212 8 破裂脳動脈瘤の急性期管理 〈森脇 寛 河野道宏〉 217 A.術前管理 217 1.病着から診断まで 217 2.診断から根治治療まで 218 a)再破裂予防と血圧管理 218 b)呼吸・循環器系の合併症対策 219 c)消化器系の合併症対策 220 B.手術戦略 220 C.術後管理 221 1.triple H therapy 221 2.灌流ドレナージ 221 3.見逃しのない日々のチェックポイント 222 4.重症スパズムに対する治療 225 5.その他 226 9 術中モニタリング 〈佐々木達也 佐久間 潤 鈴木恭一〉 228 1.運動誘発電位(MEP) 228 a)麻酔 228 b)記録法 229 c)症例提示 230 d)術中MEP所見と術後運動機能との相関 232 2.後脛骨神経刺激体性感覚誘発電位(下肢SEP) 232 a)麻酔 232 b)記録法 232 c)症例提示 233 d)術中下肢SEP所見と術後下肢運動機能との相関 234 3.視覚誘発電位(VEP) 234 a)麻酔 235 b)記録法 235 c)症例提示 236 d)術中VEPと術後視機能障害との相関 237 10 脳動脈瘤手術の合併症 〈井上智弘〉 239 1.穿通枝障害およびその対策 239 2.主幹動脈閉塞および狭窄が並存する動脈瘤手術における合併症対策 251 3.動脈瘤手術の長期合併症(regrowth) 254 11 未破裂脳動脈瘤 A.未破裂脳動脈瘤の疫学 〈森田明夫 木村俊運 楚良繁雄〉 258 1.未破裂脳動脈瘤の種類・頻度と分布 258 2.未破裂脳動脈瘤の症候 259 3.未破裂脳動脈瘤の病態 261 4.未破裂脳動脈瘤の自然経過と破裂・拡大・新生に関与する因子 261 B.未破裂脳動脈瘤治療のガイドライン 〈野崎和彦〉 267 1.本邦における脳動脈瘤 267 2.未破裂脳動脈瘤の破裂率 267 3.医療機関の方針や技量 268 4.患者背景 268 5.未破裂脳動脈瘤治療のガイドラインの変遷 269 6.今後に向けて 271 C.未破裂脳動脈瘤の治療選択 〈宝金清博 秋山幸功〉 273 a)治療の危険性 274 b)治療の費用対効果 275 c)治療ガイドライン 275 索 引 278