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書籍詳細

緩和ケアの壁にぶつかったら読む本

緩和ケアの壁にぶつかったら読む本

西 智弘 著

A5判 216頁

定価(本体2,600円 + 税)

ISBN978-4-498-05716-6

2016年02月発行

在庫あり

患者それぞれの死生観や状況,医療環境によって,決まった答えが出ない緩和ケア.それゆえ,緩和ケアに関わる医療者は,どんなに学んでも経験しても,必ず壁にぶつかる.本書では,医療者がぶつかる様々な壁を独自にカテゴライズして,その対処法を紹介.あいまいに使われがちな「寄り添う」という言葉をその概念から考えるなど,明言化が難しい事柄もできるだけ掘り下げて解説した.壁を乗り越える指針となる,バイブルとなる書だ.

まえがき

 
 緩和ケアが世の中に広まるのに,あと何十年の年月が必要なのでしょうか.
 
 これは,私自身がまさにいま直面している「壁」と言えるかもしれません.確かに,世の中の流れとしては,2006年にがん対策基本法が成立してこの方,様々な施策が打たれ,拠点病院や緩和ケアセンターは整備され,緩和ケアを学ぶ医療者も増えてきてはいます.私が医師になった2005年に比べれば,モルヒネの使い方が上手になったり,亡くなる直前まで大量輸液を続けて,患者さんを「陸で溺れさせる」といった例がなくなったり,現場は少しずつ良くなってきていることも確かだとは思います.しかし,患者さんや家族が実感する,がんやその他の生命を脅かす疾患に伴う苦痛・苦悩は,ちっともよくなっているようには思えないのです.「痛みがとれる」とか「苦しまずに済む」といった苦悩は少なくなっても,これまではあまり耳にしなかったような新たな苦悩が出てきたりと,イタチごっこを繰り返しているかのような無力感を感じているのです.時に,「緩和ケアはもう十分に全国に広まりつつある」といった言説を耳にすることがありますが,私にはまったくそのようには思えず,むしろ一定のところで停滞している,そしてその停滞を突破するカギがみつからずに同じ場所を回遊しているような苛立ちを感じているのです.このまま回遊を続けて,それに慣れてしまえば,日本の緩和ケアは何十年たっても世の中に広まってはいかないのでしょう.
 この壁を突破するカギはいったいどこにあるのでしょうか.「人間が,どうすれば苦悩を最小限に,幸せに『生ききる』ことができるか」は,私の医師として,人間としての生きるテーマですが,それはつまり「哲学」を考えることに他なりません.緩和ケアと医学と哲学,この3つを組み合わせて考えること,そしてそれを本書に著すことが,この「壁」を突破するひとつのカギかもしれません.
 
 本書を読んでいただく前に,私のバックグラウンドや私が勤務する川崎市立井田病院の診療システムを少し知っていただいたほうが,内容の理解がスムーズかもしれませんので,簡単に自己紹介をさせて頂きます.
 私は,北海道に生まれ,北海道大学医学部時代に出会った「家庭医療」に魅せられて,北海道室蘭市にある北海道家庭医療学センターを中心とした研修に入りました.そこで,ローテート研修をしたホスピスにて緩和ケアの魅力に出会い,今後の専門を緩和ケアに定めて神奈川県にある川崎市立井田病院にて緩和ケアと在宅医療の勉強を始めました.その後,栃木県立がんセンター(宇都宮市)で抗がん剤を中心とした腫瘍内科の研修をしたのち,また川崎市立井田病院に戻り,緩和ケアチーム専従医を経て,現在は腫瘍内科専従医,というキャリアを積んできています.また,本書の中にもちょっと出てきますが,いわゆるがんの「非標準的治療」のクリニックで勉強をしていたこともあります.家庭医療からスタートし,緩和ケア,腫瘍内科そして非標準的治療まで,というキャリアはちょっと異色かもしれません.
 また,川崎市立井田病院のシステムでは,腫瘍内科・緩和ケア・在宅部門を,ひとつの科(ケアセンター科)で担当しています1).抗がん剤を始めて,外来で診て,緩和チームが介入して,緩和ケア病棟で診て,そして在宅で看取ることまで全て自分一人で行うことだって可能です(実際にはチームで診療しますが).なので,患者さんや家族にとっては,抗がん剤を始めてから最期のときまで,科が代わって引き継がれるという煩わしさに悩まされることはありません.私たちがあなたと最期まで一緒にいますよ,と言えるこのシステムは,現センター長・病院理事である宮森正先生が考案し,構築したものです.とても先見性に優れたシステムで,私が患者さんにとって本当によい医療システムとは,と考えるときの礎になっています.
哲学については,ハイデガー,カント,ニーチェ,ヒューム,ソシュール,レヴィ・ストロース,フッサールなどから孔子,老子なども学びましたが,そこまで深く研究した,というほどのことではなく,本当の哲学者からすれば私の考えなど浅はかなものでしょう.だから,逆にいえば,本書ではこういう先人たちが述べた難解な哲学用語などはほとんど出てきませんので,そういうのが苦手な人でも安心して読み進めてください.
 
 本書では,緩和ケアの現場でぶつかるであろう「壁」について扱います.ただ,「壁」といっても「モルヒネを使ってもうまく痛みが取れない」とか「薬物依存があるかもしれないけど,どうしたらいいんだろう」というような,症状緩和や薬物に関する話は取り扱いません.それも確かに,悩ましいひとつの「壁」でしょうけれども,ここではより「答えの出しにくい」領域についての話に絞っていこうと思います.何せ「哲学」がテーマですからね.
 本書は緩和ケアを学び始めたばかりの医師,看護師,学生や数年間実践している中堅クラスの医療者に向けて書いています.ただ,ここでいう「緩和ケアを学び始めた」というのは,将来緩和ケアを専門にやっていこう,という方だけではなく,家庭医の方々や他の科のドクター,一般病棟の看護師や他の医療職の方々もそうです.何しろ,緩和ケアは全ての医療者が身に着けるべき基本的な技術・考え方なのですから.そしてもちろん,もうすでに緩和ケアの現場で十分に学び実践された諸先輩方にも,自分が乗り越えてきた「壁」を想い,本書を開いていただけることを期待します.
 本書を読んでいただき,多くの医療者の方々が,緩和ケアでぶつかる「壁」を乗り越えるヒント,また考えるための枠組みを得られるきっかけになることを祈っております.
 
※本書中には多くの患者さんのエピソードが出てきますが,そのほとんどはフィクションです.モデルとなるケースはありますが,それらの設定を組み合わせた上,患者さんの背景も変えてあります.その点ご了承の上,お読みください.
※本書は,エビデンスに基づく部分と,完全に私個人の私見に基づく部分が織り交ぜられて書かれています.エビデンスに基づく部分はできる限り引用を示していますが,一部にはエビデンスの内容と逆行するような意見もございます.本書をご覧いただく際は,全ての内容が一般化可能性の高い知見ではないことをご注意の上お読みください.
 
■文献
1) 西 智弘,ら.腫瘍内科と緩和ケアを統合した研修プログラムの実際.Palliat Care Res. 2015; 10: 920-3.
本書は「maggie’s tokyo project」の理念に賛同し,その活動を支援するため,売り上げの一部を同プロジェクトに寄付しています.
プロジェクトの詳細や活動,理念はp.193でもご紹介しておりますが,詳しくはmaggie’s tokyo project Webサイト:http://maggiestokyo.org/ をご参照ください.また,このWebサイトではプロジェクトへの寄付を募っており,以下の手続きでプロジェクトへの寄付を行うことも可能です(本書発行後に手続き方法の変更の可能性があるため,念のため必ず上記Webサイトをご覧いただくか,事務局へ直接お問い合わせください).是非,多くの方のご支援をよろしくお願いいたします.
 
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あとがき
 
 「『哲学』をひとつのテーマに,これまでにない緩和ケアの教科書を書いてみませんか」
というお話を頂いたときには,
 「なぜ私が?」
と思ったものです.
 確かに私は,「モトスミがん哲学カフェ」を主宰してはいるものの,「まえがき」でも述べたとおり,哲学についてはかじった程度の知識しかなく,とても人様に向けて哲学をテーマにした本など書けるはずもないと思ったからです.
 しかし,現在の緩和ケアを取り巻く環境,その実態と閉塞感,そして患者さんや家族が未だに苦悩を抱えるこの現状を見たときに,私が考え続ける「哲学」が,皆さんにとって少しでも緩和ケアの現場にそびえる「壁」を突破できるカギになればと考えたのです.
 実際にいろいろと書いてきて,改まって立ち止まり,考え直さないとならない箇所もたくさんありました.特に「余命の告知」の章と「身体拘束」の章は,何度も書き直し,時には周囲の医療者にいきなり「問い」をぶつけ,まあ迷惑された方もいたでしょう.でも,本書にちりばめられたたくさんの「問い」は,「バーンアウト」の章でも書いた「もう一人の自分」と出会うための訓練のひとつです.ぜひ皆様も,「余命は告知していいのか/よくないのか」「身体拘束は仕方ないのか/絶対にダメなのか」と問いを立て,そのときに起きる「ダメ!」という感情を「どうしていま私は『ダメ!』と思っているのだろうか」と,もう一人の自分に問いかけてみてください.
 本書で書かれていることは,本文の中でも書いた通り,あくまで現時点での私の考え方の枠組みに過ぎません.どうぞ大いに賛同し,大いに批判してください.本書の中で2つ3つ「これは共感できるから明日からちょっと見方を変えてみるかな」も最高ですし,「この著者の考え方にはまったく賛同できないけど,逆にもっといい考え方を見つけた」も最高です.私だって,この本が出版されるころに自分がどんな考え方になっているのか,見当もつきません.思想は,多くの影響を受けて変化し続けるもので良いのです.今朝言ったことを夕に変えても全く恥ずかしいことではありません(それが患者さんへの指示だと現場の混乱を招きますが).
 これまでだって,私はいろいろな方の影響を受けて,その思想を変えてきました.高名な哲学者や宗教者の方々はもちろんですが,その機会を与えてくれた,生まれてこの方出会った全ての方たちに感謝します.特に,室蘭時代から出会った多くの看護師さんたちからは「看護ケアとは何か」「プロフェッショナリズムとは何か」という医療・ケア・職業人としての基本的なことをたくさん教わりましたし,中でも川崎市立井田病院での緩和ケアチームのパートナーとして働いてきた,がん看護専門看護師の武見綾子さんには,人間の苦悩と向き合う姿勢,看護技術の力を教えて頂いたことをはじめ,日々のディスカッションを通じて成長の機会を与えて頂いたこと,そして本書に対して直接的な示唆に富む教示を頂いたことに,心から感謝いたします.そして,私をこれまで育ててくださった多くの医師の先生方,特に,小生意気で扱いにくい部下であろう私を,おおらかな心で自由に育ててくださった,川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンター所長の宮森正先生には,一生かかっても返しきれない御恩を頂きました.また,直接ご指導頂く機会はありませんでしたが,神戸の新城拓也先生(しんじょう医院)のブログ(http://drpolan.cocolog-nifty.com/)からも大きな影響を受けました.本書の随所に新城先生の主張と似通った部分が見受けられるのはそのためで,私自身の思索を深めるのに,ありがたい言葉をたくさん頂いたと思っております.
 そして,本書を企画し,出版まで私を支えてくださいました,中外医学社の鈴木真美子様には,本当にお世話になりました.
 最後に,私に宗教的なバックグラウンドを与えてくれた,今は亡き祖父母,そして私をこれまで育ててくださった父母,そして今,私を支えてくれている家族のみんなに,この場を借りて心からの御礼を申し上げます.
 本書が,皆様にとって少しでも「考えるきっかけ」になりますように.そして,一日でも早く「緩和ケア」と呼ばれるものがこの世の中に広まっていきますように.


[著者情報]
西 智弘(にし ともひろ)
川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター 腫瘍内科/緩和ケア内科
2005年北海道大学卒.室蘭日鋼記念病院で家庭医療を中心に初期研修後,川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケアを研修.その後2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科を研修.2012年から現職.現在,腫瘍内科の業務を中心に,緩和ケアチーム,在宅医療にも関わる.日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医.

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目次


1章 医療の呪縛という「壁」
 ●緩和ケアの現場でぶつかるたくさんの「壁」
 ●自分も「壁」にぶつかってきた
 ●境界はどこにあるのか?
 ●医療の呪縛
 ●医療の呪縛を乗り越えるために〜Advance Care Planningの役割
 ●「何もしない覚悟」
 ●『ブラックジャックによろしく』に学ぶ医療の呪縛
 ●医療は何のためにあるのか
 ●QOLはリスクを超える
 ●輸液は最低限のケアか

2章 「いい死に方」にとらわれる「壁」
 ●患者さんの希望を叶えることが緩和ケアの役割?
 ●いい死に方(Good Death)とは何か
 ●いい死,悪い死というのはあるか?
 ●淀川キリスト教病院の取り組みに学ぶ
 ●よい死/悪い死と死に場所
 ●人が生きることの意味
 ●「寄り添う」ことができない「壁」
 ●「寄り添う」とケア
 ●「寄り添う」の中身は?
 ●患者さんから,逃げない
 ●ベッドサイドに座ること
 ●患者さんという「人間」に好奇心をもつ
 ●言葉を紡いで薬に変える
 ●「忍」の一文字
 ●盲目的に尽くすことと寄り添うことはイコールではない
 ●「巻き込まれる」ならチームで巻き込まれよう

3章 哲学の難しさという「壁」
 ●「色即是空」という言葉を聞いたことありますか?
 ●信念対立の解消・私流

4章 エビデンスがない治療に直面する「壁」
 ●「免疫療法や補完代替療法を受けます」と言われたら
 ●非標準治療の研修をした経験
 ●免疫療法などは宗教と同じ?
 ●免疫療法を否定する,そのこころについて
 ●まずできること:患者さんを受け入れること
 ●「呪いの言葉」を吐く医療者
 ●治療の中に「希望」があるわけではない
 ●Oncologyと緩和ケアの統合
 ●手の中にある小さな「希望」

5章 意志決定をするときの「壁」
 ●Shared Decision Making
 ●Elwynらの3ステップモデル
 ●価値観のすりあわせ
 ●患者さんの苦しさもシェア(共有)すること
 ●方法論はあくまでも方法にすぎない
 ●悪い話を伝えるときの「壁」
 ●正しい情報を伝えることについて
 ●Bad News Breaking
 ●余命の告知はしたほうがいいのか
 ●余命という数字に縛られる
 ●余命告知はがん告知と同じ問題か

6章 早期からの緩和ケアの「壁」
 ●早期からの緩和ケアとは
 ●日本における「早期からの緩和ケア」
 ●「早期からの緩和ケア」を阻む壁
 ●スクリーニングについてのエビデンスと実際
 ●壁を作っているのは誰か 156
 ●緩和ケアチームはひとつのカギだが…
 ●「白衣を脱げ,まちに出よう」
 ●がんサロンのもつ「場」の力
 ●がん哲学カフェと+Care Project
 ●まとめ

7章 緩和ケアにおける医療安全の「壁」
 ●拘束される患者さんたち
 ●身体拘束された患者さんに緩和ケアはできるか
 ●身体拘束に意味はあるのか
 ●拘束を少しでも減らすために
 ●一宮身体拘束裁判
 ●感覚のマヒを防ぎ,最善を検討する

8章 バーンアウトの「壁」
 ●自分のしていることに意味なんかない!
 ●バーンアウトとは
 ●バーンアウトを避けるために
 ●バーンアウトを防ぐのに,患者さんとの間に境界を引く?
 ●バーンアウトに対処する? メタ認知:離見の見
 ●境界を引くのは自分の中に
 ●そのほかにできること
 ●まとめ〜緩和ケアで働く喜び


コラム
 ●患者さん本人にDNARの希望を尋ねるのは侵襲的?
 ●緩和ケア病棟の治療効果
 ●私,病気になってもいいんだ!
 ●若手のキャリアとPCREG
 ●ほっとサロンいだ
 ●「まずは余命告知そのものについて話題にあげる」アプローチ
 ●ENABLEIII:家族への介入について
 ●「ピープルデザイン」という考え方
 ●地域によって問題となることは違う
 ●マギーズセンターとは
 ●緩和ケアと性

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執筆者一覧

西 智弘  著

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緩和ケアの壁にぶつかったら読む本
   定価2,808円(本体2,600円 + 税)
   2016年02月発行
(外部のサイトへとびます)
  • 考え方・使い方
  • EBMシリーズ
  • J-IDEO
  • EZRでやさしく学ぶ統計学 改訂2版
  • 薬剤ポケットマニュアル
  • 本当にあった医学論文
  • CCUグリーンノート
  • もしも「死にたい」と言われたら
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