緒 言
─院内多職種で創る鎮静医療安全─
米国麻酔科学会は,1993年に『非麻酔科医のための鎮静・鎮痛薬投与に関する診療ガイドライン』(Practice Guidelines for Sedation and Analgesia by Non-Anesthesiologists. An Updated Report by the American Society of Anesthesiologists Task Force on Sedation and Analgesia by Non-Anesthesiologists)を発表し,2002年に改訂した.このガイドラインは,全ての職種,診療科に対する鎮静の基本を示している.その後,鎮静に関するさまざまなガイドラインが上梓されたが全てはこれを基本にしている.
医学シミュレーション学会鎮静委員会は,各診療科の医師,歯科医師,看護師などを含めた医療従事者を対象とした鎮静トレーニングコース(SED実践セミナー,2016年に鎮静実践セミナーに改称)を開発した.学習目標を明確化し,コース開催を重ねる中で,教育工学を活用してコース設計改善を継続的に行っている.
多くのシミュレーション講習会と同様に,形式的な内容では,受講生の意識変化もしくはアクティブラーニング活性化にとどまると感じた.そして,学習効果をあらわすカークパトリックモデルのレベル1もしくはレベル2は超えられない,と考え,コース改良を目指した.この取組の中で気付いたことは,「鎮静が行われる場所,診療科はさまざまであり,鎮静の医療安全向上には多職種間のコンセンサスが必要」ということである.すなわち,1つの診療科,職種だけが安全を唱えても安全性は向上しない.鎮静の危険性を認識し,多職種連携で「鎮静の医療安全を創る」ことが求められている.そして,多職種連携により,各病院での実際の鎮静医療安全の向上につながるカークパトリックモデルのレベル4が達成できる,という結論に至った.
このポケットマニュアルは特定の診療科に限定されず,全ての鎮静に関わる医療スタッフを対象にしている.是非とも,病院全体でこの書をご覧いただき,多職種で鎮静医療安全を構築いただきたい.
現在,医療の質を評価するJoint Commission International(JCI)が注目されている.JCIの14分野1,220項目にわたる医療システム審査項目に「鎮静の質の向上」が含まれている.これは,適切な鎮静管理方法,副作用対応への危機意識を重視し,各分野での鎮静に対する医療安全意識の活性化を期待していることの裏付けである.このポケットマニュアルが,鎮静多職種連携における共通認識として機能し,鎮静医療安全体制が向上することを祈念する.
2018年10月吉日
編著者 記