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書籍詳細

医学文献ユーザーズガイド

医学文献ユーザーズガイド

―根拠に基づく診療のマニュアル 第3版 

相原守夫 訳

B5判 870頁

定価10,120円(本体9,200円 + 税)

ISBN978-4-498-04866-9

2018年12月発行

在庫あり

User’s Guides to the Medical Literature: A Manual for Evidence-Based Clinical Practice (edited by Gordon Guyatt,Drummond Rennie,Maureen O. Maede,Deborah J. Cook―3rd ed.) の全訳.「エビデンスに基づく医療 evidence-based medicine」を考案したGordon Guyattのグループが著した,EBMユーザーズガイドの最新版.

出版社からのコメント

EBMを学ぶための,唯一にして無二のバイブル
EBM入門を謳った論文や書籍は数多あるが,もしあなたがEBMの提唱者グループからEBMのスピリットとスキルを学ぼうとするならば,本書以外に私が推薦できる書物はない.
本書を通読するならば,あなたはEBMの世界の第一線に躍り出ることができるだろう.
本書を手元に置いて拾い読みするならば,日々の臨床が新しい輝きを持つようになるだろう.

【推薦の言葉】古川壽亮(京都大学大学院医学研究科 健康増進・行動学分野 教授)

訳者

相原守夫 Morio Aihara, M.D.

相原内科医院 Aihara Clinic, Hirosaki, Japan
弘前大学医学部 消化器血液内科(非常勤講師)
Department of Gastroenterology and Hematology,
Hirosaki University Graduate School of Medicine

[訳者略歴]
秋田県生まれ
1975年 弘前大学医学部卒業
1981年〜1983年 米国ノースカロライナ大学留学
1984年〜1991年 弘前大学医学部第一内科
1991年 弘前市立病院
1992年〜 相原内科医院
2007年〜 GRADE working group member
2017年〜 Guidelines International Network(G—I—N)member

[主要な著書・リンク]
・相原守夫,他.診療ガイドラインのためのGRADEシステム―治療介入(2010年,凸版メディア)
・相原守夫,他.医学文献ユーザーズガイド―根拠に基づく診療のマニュアル 第2版(Users’ Guides to the Medical Literature— A Mannual for Evidence—Based Clinical Practice, Second Edition,翻訳)(2010 年,凸版メディア)
・相原守夫.診療ガイドラインのためのGRADEシステム―第2版(2015年,凸版メディア)
・相原守夫.診療ガイドラインのためのGRADEシステム―第3版(2018年,中外医学社)
・GRADEシステム(http://www.grade—jpn.com/)
・内科医のエビデンスに基づく医療情報(http://aihara.la.coocan.jp/)

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序文

 エビデンスに基づく医療(evidence—based medicine:EBM)は,その特定の呼称をもつ概念として,現在およそ25歳である.振り返ってみると,幼児期,小児期,思春期があり,そしていま成熟した成人期であることは明白である.この第3版の「医学文献ユーザーズガイド」は,EBM運動の成熟を確かに確立する.
 EBMになった世界観の最初の結びつきは,McMaster大学のDave Sackett(MD)が率いる臨床疫学者の一団が,臨床雑誌の読み方について臨床医にアドバイスを提供する最初の連載論文を発表した1981年に現れた.この連載シリーズは大きな第一歩を意味したが,そこには限界もあった.Sackettの一団は,いわゆる批判的吟味critical appraisalについて数年間にわたる教育を行ったが,その過程で,ブラウジングモードで文献を読むことにとどまらず,患者の治療の問題を解決するために日々研究論文を活用することの必要性と課題を痛切に認識するようになった.
 1990年,私はMcMaster大学,Internal Medicine Programの研修医指導者を務めることになった.Dave Sackettの指導を通じて,批判的吟味は,各臨床決断の根拠となる医学文献の知識と理解に立脚した診療哲学へと進展を遂げた.こうして生まれた診療スタイルは従来とは根本的に違うものであり,その違いを明らかにするための用語が必要であると考えられた.
 研修医指導者としての私の役割は,この新たな医療アプローチを実践する医師を訓練することであった.1990年春,私は医学部のメンバーに対し,プログラムの変更計画を提示したが,彼らの反応は非協力的なものであった.新たなアプローチを示す用語として私が提案したのは,科学的医学scientific medicineであった.もともと私の意見に反対する立場をとっていた人たちは,あたかもこれまでの自分たちが「非科学的」であったと示唆するようなこの用語に対し,怒りをあらわにした.私が新たな診療哲学の名称として次に思いついたのは,エビデンスに基づく医療evidence—based medicineという用語で,非常に短期間でかなりの人気となった.現在の言葉を使うと,ウイルスになった.
 運命的なMcMasterでの医学会議の後,1990年の秋,研修医プログラムに参加する,あるいは参加を考えている研修医を対象とした案内書の中にEBMという用語が初めて登場した.該当する一節を以下に示す.
 研修医は日々の患者診療において,診断,治療,予後技術の適用に際し,「良識のある懐疑主義(enlightened scepticism)」で臨むよう教育を受ける.このアプローチこそが,「エビデンスに基づく医療(evidence—based medicine)」とよばれてきたものである.これは,自らの診療の根拠となるエビデンス,各エビデンスの健全性,そしてエビデンスから推測される内容の信頼性について認識することを目的とするものである.そのためには,関連する疑問について明確に記述し,それらの疑問に関係する文献を徹底的に検索し,エビデンスならびに臨床状況へのエビデンスの適用可能性を批判的に吟味し,結論を臨床上の問題にバランスよく適用する必要がある.
 出版物においてこの用語が最初に登場したのが,1991年,ACP Journal Clubにおいてのことであった.一方,McMaster大学におけるエビデンスに基づく医療の熱心な指導者たちは,EBMの実践と教育にさらに磨きをかけていた.何か重要なことをしていたことを信じて,われわれは主に米国の学術医師のより大きなグループと結びついて,Evidence—Based Medicineワーキンググループを作り,JAMA誌にEBMの記述を定義し拡張した論文を掲載し,それを「パラダイムシフト(paradigm shift)」と名づけた.
 次にこのワーキンググループは,医学文献を診療に適用するためのより実用的アプローチを示すために,リーダーズガイドの前身ともなる一連の論文の執筆作業に取り組んだ.JAMA誌副編集長Drummond Rennieのたゆまざる支援と賢明な助言を受け,EBMワーキンググループは,1993年から2000年にかけてJAMA誌に掲載された「医学文献ユーザーズガイド」という25部からなる連載シリーズを立ち上げた.このシリーズは,新しい概念やアプリケーションに対処する論文とともに,JAMA誌で引き続き公開されている.
 医学文献ユーザーズガイドの初版は,JAMAシリーズの直系の子孫であった.2002年の書籍発表までに,EBMはすでに最初の根本的な進化を遂げており,臨床決断にはエビデンスは決して十分ではないという認識であった.むしろ治療の決断は常に望ましい結果と望ましくない結果との間のトレードオフを伴い,価値観や意向の判断を必要とする.実際,医学文献ユーザーズガイドの初版では,EBMの第1原則として,「臨床決断:エビデンスだけでは決して十分ではない」が提示され,前に述べたエビデンスの階層構造の原則に加わった.
 やがて,EBMの原則は,臨床医以外にも看護師,歯科医,歯科矯正医,理学療法士,作業療法士,カイロプラクター,足病医などの医療従事者にも同様に適用可能であることが明らかになってきた.そのため,エビデンスに基づくヘルスケアevidence—based health careやエビデンスに基づく診療evidence—based practiceなどといった用語は,エビデンスに基づくアプローチを患者の治療に適用するあらゆる臨床分野をカバーするのに適した用語であるといえる.われわれのユーザーズガイドは主に医師を対象読者とすることから,EBMという用語をそのまま使用することにした.
 第2版では,EBM思考における2つの新しいEBM発展を取り入れた.第1に,原著雑誌を批判的に吟味する臨床医が僅かしかいないこと,そしてエビデンスに基づく診療のためには,事前評価済みのエビデンスが重要であることを認識した.第2に,臨床決断が患者の価値観や意向に合致していることを確認するための最善の方法に関するわれわれの知識は未発達で広範囲の研究が必要である.
 この第3版の医学文献ユーザーズガイドは,これらの実現を基礎としており,そのほとんどは実質的にエビデンスを見つけるための改訂ガイドである.注目すべきは,事前評価済み情報源で特に医学教科書に代わるもの,すなわち,データが現れたときに更新されたエビデンス要約を作成し,診療のためのエビデンスに基づいた推奨を提供する電子出版物である.
 事前評価済みエビデンスとエビデンスに基づく推奨の重要性に対する認識は,第3版の他の変更にも反映されている.われわれは,エビデンスの階層構造と価値観や意向の判断の必要性に基本的な原則を加えた.すなわち,最適な臨床決断には,利用可能な最良エビデンスを系統的に要約する必要がある.
 この原則により,ユーザーズガイドのシステマティックレビューが根本的に改訂され,ここでは,メタアナリシスが明示的に含まれ,2つの中核となる考慮事項が認められた.第1は,システマティックレビューとメタアナリシスがどれだけ適切に実施されたかである.第2は,Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation(GRADE)ワーキンググループ8の貢献に触発され,レビューとメタアナリシスから浮上する効果推定値におく確信性の評価が要求される.しかし,レビューがうまくいっても,基礎となっている主要エビデンスがほとんど確信できないものであれば,レビューからの推論は必然的に非常に限られたものになるだろう.
 第3版医学文献ユーザーガイドには,様々な背景,事前の準備,臨床的関心,および地理的ロケーションを有する学生に対しての20年以上におよぶEBMの概念の教育を通じてわれわれが学んだ教訓を取り入れている.確かに,われわれは,世界各国を旅し,EBMワークショップで教育を指導する機会に恵まれている.タイ,サウジアラビア,エジプト,パキスタン,オマーン,シンガポール,フィリピン,日本,インド,ペルー,チリ,ブラジル,ドイツ,スペイン,フランス,ベルギー,ノルウェー,米国,カナダ,スイスなどの国々(ほかにも多数あり)のワークショップに参加することにより,われわれは背景事情やものの見方が大きく異なる生徒を対象に指導アプローチを試行し,改良する機会を得ることができる.これらのワークショップでその地域のEBM指導者が共有してくれた経験,葛藤,実績,そしてEBMの指導ノウハウは,われわれのレパートリーの中にも加えられていく.
 これまでにわれわれが学んできたことを第3版「医学文献ユーザーズガイド」として共有できることを非常に光栄に思う.

Gordon Guyatt, MD, MSc
McMaster University




前書き

 戦時中のイギリスで学校に通っていた頃,冷水浴,数学,茹でキャベツ,長距離クロスカントリー競争と並んで決まってカリキュラムに含まれていたのが,ラテン語とフランス語だった.ローマ人はとうの昔に滅びているのだから,ラテン語の学習は明らかに理論的学習にすぎない.その一方で,フランスはドーバー海峡越しにはっきりと目に見えていたにもかかわらず,当時占領下にあったか,もしくは入国ができない状態だったため,フランス語を学ぶことも,ラテン語と同様に非実用的で,理論的学習にすぎないと考えられていた.私も私の教師も,私が実際にフランス語を話すことになろうとは夢にも思っていなかった.
 この状況は,多くの一般医が医学文献に対して抱く感覚と似ている.つまり,はっきりと目に見えているのに,まったく閲覧する機会がない,という状況なのである.われわれは,診療は医学誌に掲載された知見に基づくべきであると認識している.またその一方で,何年かたつごとに文献の数は倍増し,その比較検討のために割くことのできる時間は年々減るばかりである.そのため,文献活用の作業はますます困難をきわめていく.膨大な数の論文を日々の診療に応用する作業は,自分以外の誰かがすべき難解な作業としてしか映らなくなる.こうして文献へのアクセスが遠のくにつれ,ある特定の患者における文献の有益性も作り話のように思えてくる.
 第3版となる本書は,このような状況を打開しようとするものである.本書を読めば,臨床医は医学文献の用語法のすべてに精通することができるだろう.また,暗記や推察に依拠した診療や,各自で適当に統合した経験に基づく診療からも解放されるだろう.製薬会社のMRに待ち伏せされ,あるいは患者から不意打ちをくらい,自分では評価できない新たな治療法についての説明を聞かされることもなくなるだろう.時代遅れとなった権威に頼ることも終わるだろう.臨床医は患者本位の診療を行い,患者が抱える問題を解決するための道具として文献を活用することができるようになるだろう.臨床医は関連性のある文献を閲覧し,その妥当性,ならびに特定患者への適用可能性について評価できるようになるだろう.換言すると,こうして医学における唯一かつ最も有力な情報源が臨床医の手に託されることになるだろう.

JAMA誌におけるユーザーズガイドシリーズ
 JAMA誌に掲載された「医学文献ユーザーズガイドUsers’ Guides to the Medical Literature」シリーズならびに本書の歴史については,ユーザーズガイドシリーズの原動力であり,主編者であり,最も多作な共著者であるGordon Guyatt(MD,MSc)が序文で述べる.では,JAMA誌はどのようなきっかけでその歴史に関わることになったのだろうか.
 1980年代後半,私は親友のDavid Sackett(MD)の招待に応じ,病歴ならびに診察の裏づけとなるエビデンスについて吟味する連載シリーズを出版するというJAMA誌との共同事業について話し合うために,McMaster大学にある彼の学科を訪れた.この討議の後,一連の論文ならびにシステマティックレビューが執筆され,当時のJAMA誌編集長であったGeorge Lundberg(MD)の熱烈な支持のもと,JAMA誌は1992年,Rational Clinical Examinationシリーズの出版を開始した.その頃までには,私はMcMaster大学におけるSackettをはじめとするグループとの間に,きわめて良好な協力関係を築き上げていた.彼らは,そのリーダーであるSackettと同様,因襲を打破する傾向があり,また共同作業や新たに加わった有能なメンバーとの連携にも長けており,厳格な知識を拠り所とする人たちであった.そして,リーダーであるSackettと同様,約束は必ず果たした.
 そのため,1981年にCanadian Medical Association Journal(CMAJ)に出版されて好評を博したリーダーズガイドシリーズをアップデートすることを考えていると聞いたとき,私は彼らとの間の協力関係を利用し,そのシリーズをJAMA誌のためにアップデートして拡張するよう要請した.こうして私とSackettは,当初はAndy Oxman(MD)を主導者とし,後にOxmanがオスロの現在のポストに就くために去った後はGordon Guyattを主導者として迎え,「医学文献ユーザーズガイド」シリーズを誕生させた.そして1993年,JAMA誌にてこのシリーズ論文の連載が始まった.
 当初,われわれは8編か10編の論文を連載することを考えていたが,読者からの反応があまりにも大きく,また医学文献における論文の種類も多種多様であったことから,それ以来ずっと,新たな連載論文を受理し,査読に出し,編集を行う作業は続行していた.本書の初版が2002年に出版される直前まで連載は続き,Gordon Guyattと私はこの連載シリーズを25部,論文にして33編出版し,シリーズを終結した.
 JAMA誌連載の原著論文の制作,ならびに本書の初版の出版に要した年月は,非常に有益な結果をもたらした.1990年代前半時点では主要な医学雑誌でほとんど取り上げられなかったが,何年もたってから急に話題を集めるようになったテーマにも,しかるべき関心を払うことができた.たとえば2000年,JAMA誌はヘルスケアにおける質的研究報告への読者のアプローチの仕方について,2編のユーザーズガイドを掲載している.別の例をあげると,コクラン共同計画(Cochrane Collaboration)の取り組みを通じて多大な支持を得るようになったシステマティックレビューならびにメタアナリシスは,医学文献における代表的題目として位置づけられるようになり,Gordon Guyattが序文で指摘したように,ユーザーズガイドにおける事前評価済み情報源の重要視という変化が続いている.

本書について
 当初から,本連載シリーズを1冊の本にまとめてほしいという読者の声は強かった.われわれも当初からそのつもりではあったが,新しい論文が加わるたびに,その実現は遅れた.しかしそれはかえって幸運だった.というのも,1981年にリーダーズガイドの原著論文がCMAJに掲載された当初は,Gordon Guyattが考案した「エビデンスに基づく医療evidence—based medicine」という言葉はまだ存在しておらず,医療従事者の中でコンピュータを所有している人は一握りにすぎなかった.インターネットも存在せず,電子出版など夢物語でしかなかった.1992年時点では,実用目的のために使用可能なウェブサイトが開発されたばかりで,ドットコムバブルははじけるどころかまだ登場さえしておらず,医療従事者はやっとコンピュータが使えるようになり始めたばかりであった.しかし,1990年代終盤に,Guyattと私が通常の書籍だけではなく,ウェブ版とCD—ROM版も出版したいとJAMA誌の同僚に持ちかけたところ,出版社は直ちに同意してくれた.ウェブ版とCD—ROM版の実現は,Alberta大学Centre for Health EvidenceのRob Hayward(MD)の尽力によるものである.
 本書で重点的に取り上げていくエビデンスに基づく医療という一学問分野および手法は,過去25年間で驚くべき発展を遂げ,その経緯は本書の各ページに反映されている.医学文献ユーザーズガイドの初版および第2版が一躍脚光を浴びたことに後押しされ,Gordon GuyattならびにEvidence—Based Medicine Working Groupは,第3版の出版に向けて再び各章のアップデートを行った.さらに,「エビデンスに基づく医療と認識論」,「非劣性試験の使い方」,「質改善に関する論文の使い方」,「遺伝的関連についての論文の使い方」,「システマティックレビューとメタアナリシスの結果の理解と適用」,「ネットワークメタアナリシス」という6つの章を新たに追加した.
 新版には,最新のウェブ版「医学文献ユーザーズガイド」が付属する.JAMAevidenceと称されるオンライン教育情報源の一環とし,医学文献ユーザーズガイドのオンライン版とRational Clinical Examination:Evidence—Based Clinical Diagnosisのオンライン版とが連結されている.これらは,エビデンスに基づいた医療の教育と学習のための包括的オンライン教育情報源の基礎となる.インタラクティブな電卓やワークシートは,コンテンツの実用的な補完を提供し,ダウンロード可能なPowerPointプレゼンテーションは,インストラクターにとって貴重なリソースとして役立つ.最後に,ポッドキャスティングサービスの提供によって,世界中の医学生,研修医,医師にエビデンスに基づく医療に関する最新情報を届けることができる.
 達観した著者であり,すぐれたまとめ役であり,すばらしい教師であり,同僚であり,そして友人でもあるGordon Guyattに,ここで改めて敬意を表したい.また私は,Evidence—Based Medicine Working Groupに属するGuyattの同僚の方々の多くに対し,個人的に,また大いに敬服しているが,これはグループ全体による多大な努力を要したものであることから,個人名をあげることは控えたい.この事業は,数多くの人々によるたゆまざる努力の賜物である.また,JAMA誌の関係者としては,JAMA誌所属の有能かつ創造的で,すぐれた外交手腕を持つAnnette Flanagin(RN,MA)に敬意を表したい.これらのすべてはKate Pezalla(MA)の努力と綿密な効率によって調整,計画された.私の同僚の外科医で鋭い批評家であるEdward Livingston(MD)は,JAMA誌の医学文献ユーザーズガイドシリーズを引き継いでおり,彼の手で繁栄すると確信している.さらに,McGraw—Hill Education所属のパートナーである,James Shanahan,Scott Grillo,Michael Crumsho,Robert Pancottiの努力にも謝意を表する.
 最後に,私の友人のCathy DeAngelis(MD,MPH),そして彼女の後継者であるHoward Bauchner(MD,MPH),JAMA Networkの前編集者,現編集者に対し,私や私の同僚ら,ならびにこのプロジェクトに力強い支援を提供してくれたことに感謝したい.このプロジェクトはHoward氏に引き継がれた.Howard氏が即座かつ意欲的にこの大役を引き受けたことの背景に,ユーザーズガイドシリーズの初期の論文をよく活用していたことがあると知ったとき,その受け入れに対するあらゆる懸念は解消した.事実,Howard氏はエビデンスに基づく医療の推進者として活躍していた.ビデオシリーズからなる「Oral History」2,3にまとめられたエビデンスに基づく医療の誕生および初期の展開に関するHoward氏の個人的見解は,客観的視点からユーザーズガイドをみつめ直すのに役立った.Howard氏の周囲を包み込む明るい人柄と鋭い知性は,本書の今後の版にも明るい展望を与えるものである.

Drummond Rennie, MD
University of California, San Francisco




あとがき

 エビデンスに基づく医療(EBM)が登場して,ほぼ30年となるが,はたして,国内においてEBMの基本原則は,正しく理解されているだろうか.エビデンスから行動へのプロセスにおける判断はEBMの原則に準じているだろうか.乱造される国内の診療ガイドライン作成プロセスを見る限り,EBMの原則から大きく逸脱しているものが少なくない.
 本書「医学文献ユーザーズガイド:根拠に基づく診療のマニュアル(第3版)」は,User’s Guides to the Medical Literature:A Manual for Evidence—Based Clinical Practice(edited by Gordon Guyatt, Drummond Rennie, Maureen O. Maede, Deborah J. Cook―3rd ed.)の全訳である.2002年の初版からEBMの基本原則の1つである「臨床決断には,エビデンスだけでは決して十分ではない」ことが強調され,2008年の第2版では,事前評価済みエビデンスの重要性とともに,臨床決断において患者の価値観や意向が重要であること,さらにエビデンスから推奨の決断プロセスにおいて,Grading of Recommendations Assessment, Development and Recommendations(GRADE)システムがEBMの上級編として紹介された.GRADEシステムは,システマティックレビューや医療技術評価ならびに診療ガイドラインにおけるエビデンス総体の確実性を等級付けし,医療に関する推奨の強さと方向をグレーディングする国際的な標準アプローチであり,UpToDate,コクランライブラリー,日本医療機能評価機構の医療情報サービス(Medical information network distribution service:Minds)などで採用されている.
 2015年出版の第3版においては,「エビデンスに基づく医療と認識論」,「非劣性試験の使い方」,「質改善に関する論文の使い方」,「遺伝子関連に関する論文の使い方」,「システマティックレビューとメタアナリシスの結果の理解と適用」,「ネットワークメタアナリシス」という6つの章が新たに追加された.第3版における大きな特徴は全編においてGRADEシステムに準じた内容となっていることである.すなわち,臨床決断に際しては,質の高いエビデンス情報源(システマティックレビューやガイドライン)の活用と,エビデンスの質(効果推定値の確信性)の等級,利益と不利益のバランス,価値観や意向,医療資源を考慮するというGRADEシステムの遵守の必要性が繰り返し述べられている.
 EBMは,GRADEシステムの登場・発展とともに大きく前進し,今なお洗練化され続けている.GRADEシステムを使った診療ガイドラインが継続的に作成されている日本においては,ガイドラインを作成する立場の人だけではなく,ガイドラインにおいて提示される推奨とエビデンスの意味を理解し,それらを活用する立場の人も,EBMの基本原則とはなにか,GRADEのエビデンスの確実性の等級と推奨の強さのグレードの意味を再確認し,エビデンスから推奨への変換プロセスを最適なものにするために本書が役立つことに確信を持っている.また,本書を活用して進化するEBMを適切に理解し,EBMの代表的な前進を意味するGRADEシステムを適切に活用する新世代が登場し,世界に衝撃を与えるような日本発のエビデンスに基づく臨床研究や診療ガイドラインを発表する状況となることを切に願っている.
 最後に出版に際して協力していただいた,中外医学社五月女謙一氏,高橋洋一氏に感謝したい.

2018年10月
相原守夫

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目次

前書き
序文
JAMAevidence
執筆者一覧

Part A 基礎編
 第1章 医学文献(と本書)の使い方―自身の患者の治療の改善のために
 第2章 エビデンスに基づく医療とは何か
 第3章 エビデンスに基づく医療と認識論
 第4章 疑問は何か
 第5章 最新の最良エビデンスを探す
 第6章 なぜ研究結果が誤解を招くのか:バイアスとランダム誤差

Part B 治療
 第7章 治療(ランダム化試験)
 第8章 非劣性試験の使い方
 第9章 治療はリスクを減らすか.結果を理解する
 第10章 信頼区間:単一研究またはメタアナリシスは十分大きいか
 第11章 上級編:治療試験のバイアスのリスク
  11.1 バイアスとランダム誤差の説明
  11.2 ランダム化試験の驚くべき結果
  11.3 利益を理由に早期中止されたランダム化試験
  11.4 ITT(治療企図)原則と曖昧な脱落
  11.5 N—of—1ランダム化臨床試験
  11.6 臨床決断支援システム
  11.7 質改善に関する論文の使い方
 第12章 上級編:治療試験の結果
  12.1 仮説検定
  12.2 結果を理解する:オッズ比についてもっと詳しく
  12.3 何が信頼区間の幅を決めるか
  12.4 複合エンドポイント
  12.5 患者の経験を測定する
 第13章 上級編:治療試験の結果の適用
  13.1 個々の患者に結果を適用する
  13.2 治療必要数
  13.3 臨床試験結果の誤解を招く提示
  13.4 代理アウトカム
  13.5 質的研究

Part C 害(観察研究)
 第14章 害(観察研究)
 第15章 上級編:害
  15.1 相関と回帰

Part D 診断
 第16章 診断の過程
 第17章 鑑別診断
 第18章 診断検査
 第19章 上級編:診断
  19.1 範囲バイアス
  19.2 尤度比の例
  19.3 偶然以上の一致を測定する
  19.4 臨床予測規則

Part E 予後
 第20章 予後
 第21章 上級編:予後
  21.1 遺伝子関連に関する論文の使い方

Part F エビデンスをまとめる
 第22章 システマティックレビューとメタアナリシスのプロセス
 第23章 システマティックレビューとメタアナリシスの結果の理解と適用
 第24章 ネットワークメタアナリシス
 第25章 上級編:システマティックレビュー
  25.1 固定効果モデルとランダム効果モデル
  25.2 サブグループ解析の使い方

Part G エビデンスから行動へ
 第26章 患者の治療に関する推奨の使い方:診療ガイドラインと決断分析
 第27章 意思決定と目の前の患者
 第28章 上級編:エビデンスから行動へ
  28.1 推奨の強さの評価:GRADEアプローチ
  28.2 経済分析
  28.3 スクリーニングに関する推奨
  28.4 クラス効果を理解する
  28.5 EBMを実践する医療者とエビデンスに基づく治療
 第29章 本書ユーザーズガイドの指導者用ガイド

用語集

あとがき

索引

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執筆者一覧

相原守夫 相原内科医院 院長 訳

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