はじめに
本書は,全ての臨床家の先生方を対象としています.そして,漢方医学に興味がある初心者を読者と想定しています.漢方医学の初心者が,漢方薬を使って,精神疾患の治療を行えるようになることを第一の目標としています.精神疾患の治療とはいっても,全ての精神疾患を対象とするものではありません.主として,不安を背景とした神経症領域が主な治療対象になります.これまでは神経症領域の治療にはベンゾジアゼピン系抗不安薬が主に使われてきました.最近ではベンゾジアゼピン系抗不安薬の依存について,注目が集まるようになっています.国もその対策に動きだし,診療報酬上での制約を設けていく方針です.神経症領域の治療に漢方薬が用いられる機会が増えていき,少しでも抗不安薬依存の問題が解消されることを願っています.
「こころにもからだにも効く漢方」というタイトルではありますが,精神疾患の範疇ではない症状も解説しました.
それは,真に心身両面の医学を行うためのガイドになってほしいという願いからです.精神疾患を抱える患者さんが身体的な症状,疾患を合併すると,多くの場合には身体科に紹介されます.そこで,異常がないとされると患者さんが途方に暮れてしまいます.そのような場合に精神科医が漢方薬で種々の身体症状に対処できれば,患者さんのクオリティー・オブ・ライフに寄与できると思います.
私自身が元々精神科医ですが,漢方医学を学ぶことによって,身体症状に対してアプローチする方法を得ることができました.一人でも多くの先生方がこころの問題と身体症状両方に対応できるようになるためのよすがになればと願っています.
最後に,寺澤捷年先生,証クリニックの檜山幸孝先生,久永明人先生のご指導,高山宏世先生,花輪壽彦先生はじめ多くの先達のご著書があってこそ本書をしるすことができました.心より感謝いたします.
2019年5月
著者