序

　せん妄は，様々な要因で急性に発症し，病棟勤務医やスタッフに慌ただしい対応を強いる．しかし，精神症状に対する苦手意識をもつ医師やスタッフは少なくない．また，せん妄の原因となる身体疾患の有無や他の精神疾患との鑑別など，内科や外科といった非専門医にとっては非常に難渋する病態である．
　ところがせん妄は，一般病院入院患者の11〜33％に発生する高頻度の精神症状・病態であり，身体疾患の疾病状況を増悪させるため死亡率は22〜76％と急性心筋梗塞や敗血症に匹敵すること，医療費を上昇させ社会資源への負担を増大させること，高齢化が著しい現況においてさらなる増加が自明であることから，適応薬剤がない状況でも無為では済まされない医学全般の立ち遅れた課題である．そのようなせん妄に対する十分な対策は，何より患者の利益であると同時に，在院日数の長期化を防ぐため，特にDPC下にある総合病院では損益を最小化する点でも貢献する．
　そこで本書では，一般病棟やICUなどの日常診療で遭遇するせん妄の診断と治療，陥りやすいピットフォールなどを実際の症例を基に非専門医にもわかりやすく，Q&A形式での解説を交えながら紹介する．
2012年10月
編　者　

目　次

第1章　総論 
　(1)診断・予防 〈岸　泰宏〉　　
　　1．せん妄とは？ 　
　　2．せん妄の診断 　
　　3．認知症との鑑別 　
　　4．せん妄の予後 　
　　5．せん妄の直接原因 　
　　6．せん妄の有病率 　
　　7．予防 
　(2)治療 〈八田耕太郎〉　　
　　1．せん妄治療の動向 　
　　2．せん妄の治療法 　
　　3．せん妄の予防法 

第2章　症例と解説
　(1)頭蓋内疾患によるせん妄　
　　症例A 〈野田隆政　松田太郎　蟹江詢子　安藤久美子〉　　
　　症例B 〈川嵜弘詔　光安博志〉　
　(2)全身疾患によるせん妄　
　　症例A 〈竹内　崇　京野穂集〉　　
　　症例B 〈井出文子　上條吉人〉　
　(3)依存・乱用薬物によるせん妄　
　　症例A 〈中村　満〉　　
　　症例B 〈銘苅美世　諏訪　浩〉　
　(4)薬剤の副作用によるせん妄　
　　症例A 〈西村勝治　稲田　健〉　　
　　症例B 〈桂川修一　黒木宣夫　長谷川千絵〉　
　(5)認知症に伴うせん妄　
　　症例A 〈小田原俊成〉　　
　　症例B 〈和田　健〉　
　(6)緩和医療におけるせん妄　
　　症例A 〈小川朝生〉　　
　　症例B 〈井上真一郎　内富庸介〉　

索引

執筆者一覧

八田耕太郎　順天堂大学医学部附属練馬病院 メンタルクリニック先任准教授　編
岸 泰宏　日本医科大学武蔵小杉病院精神科部長　編
野田隆政　国立精神・神経医療研究センター病院精神科医長　
松田太郎　国立精神・神経医療研究センター病院精神科　
蟹江詢子　国立精神・神経医療研究センター病院精神科　
安藤久美子　国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所司法精神医学研究部専門医療・社会復帰研究室長　
川嵜弘詔　九州大学大学院医学研究院精神病態医学准教授　
光安博志　九州大学病院精神科神経科　
竹内 崇　東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学分野　
京野穂集　東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学分野　
井出文子　北里大学医学部救命救急医学　
上條吉人　北里大学医学部救命救急医学診療准教授　
中村 満　東京都保健医療公社豊島病院精神科部長　
銘苅美世　北里大学医学部救命救急医学中毒・心身総合救急医学　
諏訪 浩　東京都保健医療公社荏原病院精神科医長　
西村勝治　東京女子医科大学医学部精神医学教室講師　
稲田 健　東京女子医科大学医学部精神医学教室講師　
桂川修一　東邦大学医療センター佐倉病院メンタルヘルスクリニック准教授　
黒木宣夫　東邦大学医療センター佐倉病院メンタルヘルスクリニック教授　
長谷川千絵　東京武蔵野病院　
小田原俊成　横浜市立大学附属市民総合医療センター 精神医療センター准教授　
和田 健　広島市立広島市民病院精神科主任部長　
小川朝生　国立がん研究センター東病院臨床開発センター精神腫瘍学開発部室長　
井上真一郎　岡山大学病院精神科神経科　
内富庸介　岡山大学大学院医歯薬学総合研究所精神神経病態学教授