序　文

　私が医師国家試験に受かったころは思い返すと初期研修医向けの救急診療・救急対応の書籍というのはかなり限られていたが，この10年前後で救急関連の書籍が増えて，専門書店やAmazonなどでは“救急関連本戦国時代”とも言えるような状況となっています．こういう状況は，救急医療に携わっている医師の一人として救急医療の分野が活発になっているといううれしい気持ちや，様々な書籍に触れられる研修医へのうらやましさを感じます．（「昔は（俺の時は）こうだった」と後輩指導で言ってはいけないのですが言ってしまいたくなります）．
　たくさんの書籍が出てきているものの，初期研修期間の後半や専攻医研修のタイミングにおいて「ある程度の初期対応はできる気はするけど，ちょっと踏み込んだ内容までは知らないなぁ．もう少し深いところを気軽に触れられたらなぁ」という気持ちに沿った絶妙にかゆいところに手が届く書籍にはなかなか出会えません．
この度機会をいただき，より救急医療の深みを垣間見ることができる書籍に関わらせていただきました．
テーマに関しては勉強嫌い・読書嫌いな私自身が専攻医時代をふと振り返った際に，知らなかったけど知っていたらもっと医師として変わっていただろうなぁという領域も入れております．また日常診療では触れられないけど救急医療・救急診療において外すことができない，災害医療や被ばく医療にまで踏み込んでいます．
目次の執筆担当者を見ていただくとわかりますが，本書には救急医としてドップリ浸かっている方だけではなく，救急医＋αの方，救急医療に関わりながら各専門領域で進んでおられる方など多岐にわたる方々に協力いただいています．
　これは救急医の守備範囲の広さを示すとともに，救急医療が様々な専門科に協力を得て成り立つものであることを示しています．なかなか各専門領域の踏み込んだ部分まで知れる機会は乏しいかと思います．本書を一度通読すると，初期研修医の皆さんは救急医療の奥深さの一端を垣間見て救急医療という分野に興味が湧いてきっと救急科を追加ローテしたり専攻医まで目指したくなる（はず）．救急科専攻医の皆さんは自分が踏み入れた領域の他科にはない面白さが染み渡ってきて明日からの診療のモチベーションに繋がると思います．
　各テーマからコラムに至るまで，救急外来で役立つ内容から自宅での自己研鑽にも役立つ内容まであります．
　働き方改革の時代でも，高齢化社会の時代でも，病院経営が苦しい時代においても救急診療・救急医療の必要性が下がることはなく，求められることはむしろ増えていくと思います．不安定な社会情勢にも負けない芯のある医師・救急医のちょっとした助けになることを願うばかりです．
　とはいえ，内容は肩肘張らずどんなタイミングでも読みやすい内容ですので，余すことなく堪能してください．そして読み終わったときの爽快感と成長感を全身で感じていただけたらと思います．

2025年9月

東　裕 之

目　次

1章 症候からの救急の鉄則
 1 救急診療の掟 〈林　寛之〉
 2 トリアージ 〈前田重信〉
 3 心肺停止・蘇生処置 〈中西泰造〉
 4 外傷初期診療 〈吉野智美〉
 5 意識障害 〈西沢拓也〉
 6 救急気道管理 〈東　裕之〉
 7 ショック 〈山田直樹〉
 8 発熱 〈東　秀律〉
 9 頭痛 〈茂見　瞭〉
10 けいれん 〈多田昌史〉
11 胸痛 〈野木一孝〉
12 呼吸困難 〈宮?勇輔〉
13 めまい 〈坂　正明，野浪　豪〉
14 失神・前失神 〈西田　成〉
15 急性腹症 〈福本雄太〉
16 吐血・下血 〈階戸　尊，林　実〉
17 咽頭痛 〈四本仁寛〉
〔コラム〕新興感染症（未知の感染症）ERにおける感染対応 〈藤原辰也，忽那賢志〉

2章頭頸部救急の鉄則
18 脳血管障害 〈伊禮裕人〉
19 髄膜炎・脳炎 〈東　秀律〉

3章心血管救急の鉄則
20 急性冠症候群（ACS） 〈多田昌史〉
21 急性心不全 〈下島正也〉
22 不整脈（頻脈・徐脈・致死的不整脈） 〈野木一孝〉
23 急性大動脈解離・心タンポナーデ 〈和田　亨〉
〔コラム〕論文検索情報管理? 〈岡正二郎〉

4章胸部・腹部救急の鉄則
24 肺塞栓症 〈野浪　豪〉
25 肝・胆道疾患 〈瀬川　翔〉
26 気管支喘息 〈塚尾仁一〉
27 緊張性気胸 〈東　裕之〉

5章内分泌救急の鉄則
28 糖尿病ケトアシドーシス（DKA）・ 高浸透圧高血糖症候群（HHS） 〈西田　成〉
29 クリーゼ（副腎・甲状腺） 〈茂見　瞭〉
30 電解質異常 〈田中惇也〉
〔コラム〕論文検索と情報管理? 〈徳竹雅之〉

6章泌尿器科救急の鉄則
31 泌尿器科救急 〈福本雄太〉

7章耳鼻科救急の鉄則
32 鼻出血・耳鼻腔異物 〈松本　敬〉

8章眼科救急の鉄則
33 眼科救急 〈岩見有希子〉

9章産科・婦人科救急の鉄則
34 異所性妊娠・卵巣腫瘍茎捻転・卵巣出血 〈松宮克樹，中村俊昭〉
35 子癇・産科危機的出血 〈松宮克樹，中川映理子〉
〔コラム〕妊婦外傷 〈松宮克樹，中川映理子〉

10章小児科救急の鉄則
36 熱性けいれん・腸重積・虫垂炎 〈竹井寛和〉

11章皮膚科救急の鉄則
37 皮膚軟部組織感染症 〈岡正二郎〉
38 熱傷 〈岡正二郎〉
39 皮下異物 〈岡正二郎〉

12章精神科救急の鉄則
40 精神科救急・中毒 〈伊禮奏子〉
〔コラム〕医学英語（海外からの患者さんを英語で診療する） 〈山田直樹〉

13章整形外科救急の鉄則
41 骨折（開放骨折・骨折固定）コンパートメント症候群 〈吉野智美〉
42 脱臼整復・肘内障 〈伊禮裕人〉

14章創傷処置の鉄則
43 創傷処置・縫合方法（種類，糸，針） 〈岡正二郎〉

15章救急検査・画像検査・救急薬物療法の鉄則
44 外傷CT検査 〈狩野謙一〉
45 救急X線検査 〈和田　亨〉
46 救急心電図検査 〈野木一孝〉
47 救急超音波検査（POCUS）・エコーガイド下処置 〈西沢拓也〉
48 血液ガスの評価 〈伊禮裕人〉
49 薬剤投与 〈松本　敬〉
〔コラム〕Multiple encounter：複数の患者を同時に診察するコツはあるか？ 〈東　秀律〉

16章その他
50 被ばく医療 〈前田重信〉
51 災害医療 〈東　裕之〉
52 クレーム！ペイハラ！どうする!? 〈永井秀哉〉
53 虐待 〈竹井寛和〉
54 他科（専門医）コンサルト 〈瀬良　誠〉
55 ERでのPSA 〈林　実〉
56 ERでの酸素療法 〈宮?勇輔〉
57 小児救急の家族対応 〈吉野智美〉
〔コラム〕救急看護認定看護師からみた困った救急医 〈笹島加那江〉

索引

執筆者一覧

東裕之　福井県立病院救急センター 医長　編著
瀬良誠　福井県立病院救急センター 医長　編著