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書籍詳細

これだけ!外来で診るアルコール使用障害

これだけ!外来で診るアルコール使用障害

成瀬暢也 著 / 手塚幸雄 著

A5判 160頁

定価3,300円(本体3,000円 + 税)

ISBN978-4-498-22974-7

2025年10月発行

在庫あり

これだけで対応可能.アルコール使用障害を診るための必須エッセンスを凝縮した一冊.
アルコール使用障害は決して「専門医が診る病気」ではなく,実際には一般内科医やかかりつけ医が日常的に遭遇しています.糖尿病や高血圧の診療と同じく,最低限の知識と適切なつなぎ方を知っておくことが,患者の重症化を防ぐ鍵です.
本書では,「これだけ知っていれば大丈夫」という診療の要点を凝縮.苦手意識を取り払い,外来で安心して対応できる実践的な一冊です.多忙な現場でもすぐ活用できる内容で,アルコール診療を特別なものではなく日常診療の一部として身につけることが可能です.

はじめに

 アルコール使用障害とは,乱用と依存を合わせた診断名である.乱用はアルコール使用上のルール違反,依存はコントロール障害である.つまり,使用障害は,飲酒により何らかの問題が起きている状態を指す.これまで,依存症というと重い病気というイメージが強かったかもしれないが,使用障害は依存症以前の軽い問題にとどまる人をも含むことになる.
 米国精神医学会の定めるDSM—5の使用障害の診断基準の概略を示す1).

・12ヵ月の期間内に以下の11項目のうち2項目以上で診断
1.当初の思惑よりも摂取量が増えたり長時間使用したりする.(依存)
2.物質中止・減量の持続的な欲求または努力の失敗がある.(依存)
3.物質使用に関連した活動に費やす時間が増える.(依存)
4.物質に対する渇望,強い欲求,衝動がある.(新設)
5.物質使用により社会的役割が果たせない.(乱用)
6.社会・対人関係の問題が生じていても飲酒する.(乱用)
7.物質使用のために重要な社会活動を犠牲にする.(依存)
8.身体的に危険のある状況で物質使用を繰り返す.(乱用)
9.心身に問題が生じていても物質使用を続ける.(依存)
10.耐性:反復使用による効果の減弱または使用量の増加.(依存)
11.離脱:中止や減量による離脱症状の出現.(依存)
*重症度:軽度2〜3項目,中等度4〜5項目,重度6項目以上

 1年間のある時期に11項目中2項目以上満たせば使用障害と診断される.項目数により軽度〜中度〜重度と重症度が決められる.使用障害が軽度から重度に向かえば,依存症の特徴がより強くなる.エピソード的な乱用から,それを繰り返すことで依存形成され依存症が重症化していくことになる.
 「ありふれた病気」であるアルコール使用障害であるが,未だに誤解と偏見が強く,治療を受けることなく悪化していく例が多い.わが国においても問題飲酒者は1,000万人,アルコール依存症患者は100万人いると推定される状況で,年に1回でもアルコール依存症の診断で治療を受けた患者は10万人にも満たない.
 このトリートメントギャップの大きさは,患者や家族,社会のアルコール使用障害(依存症)に対する誤解と偏見と共に,一般の精神科医療機関がアルコール使用障害を診ていないという事実も無視できない.患者が治療を求めても,治療が提供されていないのが現状である.
 このアルコール使用障害を巡る現状と問題点について,関心のある方は,拙著「アルコール依存症治療革命」(中外医学社)を参照していただきたい.
 アルコール使用障害というだけで,「厄介で関わりたくない患者」と誤解されている.患者は病状を悪化させ,さまざまな症状や問題を引き起こす.患者はどうにもならなくなって初めて,仕方なく依存症専門医療機関を訪れるか,医療につながることなく放置されている.
 本書は,治療者がアルコール使用障害患者の診療を,どうすれば診やすくなるか,関わりやすくなるかを,専門ではない医療者を対象として,「これだけ!」にポイントを絞ってまとめたものである.支援に関わる人々が苦手意識をもってしまうことが治療を滞らせてきた.これまで「正しい」とされてきた原則が,実は何の根拠もない誤った対応を強いてきたことも治療がうまくいかない要因になっている.不適切な治療対応が推奨されてきたのではうまくいかないであろう.
 患者をどのように理解してどのように関わるか,そこに焦点を当て,誰もがアルコール使用障害患者と無理なく関われることを目的としている.使用障害は特別な病気ではなく,特別な治療を要するものではない.当たり前に治療に大切なことを理解して対応すればいいのである.
 本書が,治療者のアルコール使用障害患者に対する苦手意識を少しでも払拭でき,多忙な日常臨床においても必要な治療を提供できる一助となることを願っている.

文献
1)日本精神神経学会.DSM—5—TR精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院;2023:p.535—6.

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目次
 
はじめに 成瀬暢也 
 
1章 総論 成瀬暢也
  
 I アルコール使用障害患者を理解する
  1.アルコール使用障害とはどんな病気なのか?
  2.アルコール使用障害患者とはどんな人なのか?
  3.アルコール使用障害患者の対応が難しい理由
  
 II アルコール使用障害患者の対応のコツ
  1.うまくいかない原因は患者の人間不信と治療者の陰性感情である
  2.人間不信が解決すれば使用障害は改善する
  3.信頼関係ができていないのに断酒を強要してこなかったか
  4.信頼関係づくりが治療の成否を決める
  5.心の伴わない治療は反発を生み出す
  6.同時に治療者も患者に苦手意識をもってしまう
  7.治療者自身をチェックする
  8.自身のもつ患者に対する苦手意識を扱う

  上級編 もう少し深く関わりたい治療者のために
  1.対応が難しい使用障害患者と上手に関わるコツ
  2.厄介で関わりたくない患者ほど劇的に回復する
  3.患者と信頼関係を築けると支援者も幸せを感じられる
  
 III 治療場面でどのように患者と関わるか?
  1 初診時・初期の治療対応:治療の動機づけをして治療契約を結ぶ
   1.患者に対して困っている人として向き合う
   2.患者が受診することの大変さを理解する
   3.患者の受診を歓迎の意を表して受け入れる
   4.同伴者がいる場合,一緒がいいか別がいいかを尋ねる
   5.患者が困っていることを聴く
   6.患者がどうしたいか・どうなりたいかを聴く
   7.これまでの経過を話してもらう
   8.これまでの生い立ちを聴く
   9.生きづらさが語られた場合は苦労をねぎらう
   10.依存症の背景にある6つの問題について尋ねる
   11.原因は「人間不信」と「自己否定」ではないかと尋ねる
   12.アルコールが果たしてきた役割を確認する
   13.苦しければ飲酒量は増えていくことを説明する
   14.飲酒は「孤独な自己治療である」ことを確認する
   15.アルコールなしで生きられなくなっていないかを問う
   16.飲酒のコントロールを失った状態が使用障害(依存症)であると説明する
   17.使用障害の最大の問題はストレスに弱くなることであると説明する
   18.コントロールできないのは意志の問題ではないと説明する
   19.あなたの場合はどうでしたか? と投げかける
   20.治療に取り組めば良くなることを伝え治療契約を結ぶ

  2 治療をどう展開していくか:治療を軌道に乗せ継続できるようにする
   1.飲酒に求めていたものを別のものから得る必要がある
   2.それが「人からの癒し」であると思う
   3.これまで人に癒されることが少なかったのでは?
   4.回復のためには6つの問題の改善が必要である
   5.人を信じられなかったから孤独で生きづらかったのでは?
   6.まずは正直な思いを話してもらえる場にしてほしい

  3 可能であれば試みてほしいこと:これができればステップアップになる
   1.自助グループで回復者に会い話を聴く
   2.セミナーやフォーラムで回復者の話をたくさん聴く
   3.依存症の回復をイメージできるようになる
   4.回復が生まれる温かい雰囲気を感じられる
   5.回復を楽観的に信じられるようになれる
  
 IV 無理にやめさせようとしない使用障害治療の重要性
  1.無理にやめさせようとしないため信頼関係を築きやすくなる
  2.スティグマを軽減することによって患者を傷つけずに治療できる
  3.敷居の低い支援を提供することで人の支援が届きやすくなる
  
 V アルコール使用障害治療のコツ,これだけ!
  
2章 これだけ! 手塚幸雄
  
 これだけ! 一覧
  
 I 対象を選ぶ
  1 医師の印象診断
  2 AUDIT—C
   コラム 短時間でできるその他のスクリーニング
   ケース スクリーニング体制を作ろうとしても協力が得られない
   ケース スクリーニング後の対応に時間が取れない
  
 II 減酒指導を行う
  コラム 生活習慣病のリスクを高める飲酒量
  ケース 「自分にはアルコールの問題はない」と言い張る
  ケース Ultra—BI自体が患者に受け入れられない
  ケース 減酒する気がない(ように医師からは見える)
  
 III アルコール使用障害と診断する
  コラム 病名の変遷
  コラム ICD—10, 11
  ケース アルコール使用障害と診断するが,本人が診断名に納得しない
  
 IV アルコール使用障害の治療を行う
  1 ナルメフェンを処方する
   ケース ナルメフェンの処方を提案したが,「薬がなくても自分で減らせる」と拒否
  2 飲酒量の記録をつけてもらう
   ケース 飲酒量を記録してこない
   ケース 医師が期待する結果にならない
  3 さらなる知識・技術をもとにした対応
   ケース 飲酒が続いていることを告白された
  4 治療を続ける
   ケース 飲酒を続けていることを理由に内科受診を拒否された
   コラム 断酒か減酒か
  
 V 専門医療機関へ紹介する
  コラム 自助グループ
  コラム 家族支援
  コラム 精神保健福祉センター・保健所
  ケース 専門医療機関を紹介したが本人が拒否した
  ケース 精神科受診への拒否感が強い
  ケース 精神科・心療内科の診療で,患者の飲酒習慣が見逃される
  ケース 専門医療機関に紹介したが,「断酒をする意志がない」という理由で断られた
  コラム 依存症と専門医療
  
3章 アルコール使用障害の治療アドバンスド 手塚幸雄
  
 I 薬物療法
  1 飲酒量低減薬 ナルメフェン(セリンクロ®)
  2 断酒補助薬 アカンプロサート(レグテクト®)
  3 抗酒薬 ジスルフィラム(ノックビン®),シアナミド(シアナマイド®)
  ケース 添付文書の記載を見て処方をためらう
  ケース ナルメフェンの吐き気やふらつきなどの副作用で内服を中断した
  
 II 心理社会的治療
  1 動機づけ面接
  2 随伴性マネジメント
  3 認知行動療法
   ケース チェンジトークを引き出せない その1
   ケース チェンジトークを引き出せない その2
   ケース 患者が話すこと自体に抵抗を示し,会話がかみ合わない
   ケース 患者の言動が医療者の価値観と合わない
   コラム 女性とアルコール
   コラム 医学モデルと社会モデル
  
 III 簡易介入
  1 HAPPYプログラム
  2 ABCDプログラム
  3 Ultra—BI
   ケース 飲酒に対する指導を行いたいが,十分な時間が取れない
   コラム Webやアプリによる簡易介入
   ケース 簡易介入を導入したいが,診療報酬の問題でハードルが高い
  
 IV モニタリングのツール
  1 紙ベースのツール
  2 Webサイト
  3 スマートフォンアプリ
   ケース 飲酒量の計算が難しい
   ケース 飲酒量の記録に抵抗がある
  
おわりに 成瀬暢也
索引

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執筆者一覧

成瀬暢也 埼玉県立精神医療センター副病院長 著
手塚幸雄 沖縄リハビリテーションセンター病院 TAPICアディクションセンター長 著

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