序文
近年,スポーツはますます多様化し,性・年齢・体力レベル・健康度など,身体条件が異なる人々が,さまざまな目的と目標をもってスポーツを実践するようになっている.対象によってスポーツの方法(質・量)も効果や中身もちがう.
一方,このようなスポーツの多様化とスポーツ人口の増大に伴ってさまざまな自己・傷害が起きている.結果,スポーツ現場で事故・傷害に即座に対処しなければならない事例も増加している.最初に救急処置を施す立場にあるのはスポーツ指導者・コーチ・教師・トレーナー・スポーツドクター・付き添いの父兄などである.
スポーツ事故や傷害で最も重要なことは,事前の予防である.そして,不幸にも起こったスポーツ事故や傷害の救急処置で大切なことは,事故の状況を的確に把握して,間違いない判断と処置を行うことである.また,事故の原因を点検し,動揺の事故が起きないように具体的な予防対策を講じることも必要である.
本書は,スポーツ事故や傷害の予防という観点から,スポーツ種目別に高頻度で起こる事故や傷害を記載し,さらに,スポーツ事故に遭遇した時に,必要に応じてすぐに読んで対処し得るように企画された.スポーツ現場との交流の深いスポーツドクターたちの手により,具体的な事故の状況を想定しながら,現場で何が起こり,何をどのようにしなければいけないのか,何をしてはいけないのか,予防のためにどうすればよいのかが,分るように配慮して編集したつもりである.
図表・イラストの多くは,この本のために執筆内容をよりよく理解できるための手だてとして各執筆者が工夫したものである.
さまざまなスポーツ現場で,正しい知識と技術でもって迅速にかつ適切な形で救急処置がなされ,一人でも多くの生命が救われ,一つでも多くの傷害が軽減されることに,本書が役立てば幸いである.
末尾ながら,本書発刊の陰の推進役となった(株)中外医学社社長青木三千雄氏と企画部長荻野邦義氏に厚く御礼申し上げる.
1991年1月
編著者